2010年3月27日土曜日

書評

ゴーマニズム宣言SPECIAL 昭和天皇論 (単行本)

中学生の頃から兄の影響で,小林よしのりを読んでいた.その影響で,今でも時折読んでいる.

そのおかげ(?)なのか,中学高校の歴史の授業は苦痛でしょうがなかった.一方的な歴史解釈をまるですべてのように教え,意にそった回答を行った方が,先生からの評価も高いという経験がいくつかあった.結局,工学やエンジニアの道を選んだのもそういう経験が根にはあるとおもう.

今回は昭和天皇論を読んだ.題の通りだが,昭和天皇について,特に終戦から戦後にかけて描かれている.もちろん本書は一読の価値ありで,クオリティも高いと思う.昭和天皇を知る上では重要な本だ.特に,終戦の判断と,終戦後の世界に対する先見性,戦後の復興への貢献,所々に垣間見える一方的な西洋文化侵略の危機に対する言動や行動には,難しい立場にも関わらず,素朴に関心してしまった.

  ただ,残念ながら僕はまだ若いようだ.作者の主張は充分理解できるし, 昭和天皇が非常に優秀な人であったことも理解できたし,国や国民を思う姿勢もすごい.しかし,僕はまだ心の底から天皇のことを作者のように考えることはできない.

もちろん,日本という国を考える上で,現在の天皇制が重要な役割をもち,天皇なくして日本という国もないのだということは理解できるし,今後も天皇なき日本になってはいけないとも直感的に思う.

これらの本はそう意味で重要だ.なにせ,この作者や作品がなかったら多くの若者は何もしらずに,日本という場所にいるだけになる.誰も知らないというのは,それほど,戦後と戦前は日本という国が違う状況になってしまったということでもあるが.

ただ,同時に考えてしまう.そんな,何も知らない我々が,ますます世界が小さくなり,経済主義的に考えなければいけない場面が多くなる中で,天皇制の価値を充分に理解し,みんなが納得し,維持していけるのだろうか.国という概念が,そもそも今後変わってしまう流れに飲み込まれていくのではないだろうか.僕には残念ながら,これらの流れに対する日本人としてのあり方としての答えみたいなものは未だに分からない.

だからこそ,この本書は今後の僕に重要なものになるのかもしれない.一つ確かなことは,毎度この作者の作品を読む度に思うのだが,僕たちは歴史の大きな流れのある刹那の目撃者であり,同時に将来への重い責任を背負っているということだ.そして,日本が戦後,地政学的に重要なキーを握る国となったように,我々は大きな運命にも身を委ねられている気がする.

生命操作は人を幸せにするのか—蝕まれる人間の未来 (単行本)

センセーショナルな題の割に至って内容は一般的というか,常識的な内容だった.それもそのはずで,調べたらもともとの題は"Life, Liberty and the Defense of Dignity: The Challenge for Bioethics"だそうだ.

著者のレオン・R・カスは医学博士でブッシュ大統領から大統領生命倫理委員会の委員長に任命された人物である.

内容は,臓器売買や遺伝子操作,クローン技術,死ぬ権利などについての倫理学的な問題について述べている.

個人的に印象的だったというか,改めて思い知らされたのが,科学に関する一説である.
もともと,著者が行っているような,科学者によって倫理的検証を行ったり哲学的問題を解決していこうという試みは実はまだ新しいようで,一般的に科学者などは,それが世の中にとって良いか悪いかということは,基本的に検証はしない.それは,確かにそのとおりで,アインシュタインとかが,非常にいい例だが,彼は核爆弾を製造可能とした張本人であることは,誰もが知っている事実だ.工学者や科学者は,基本的に新たな事実を見つけ出したり,不可能だと思われている問題を科学的に解決しようとするだけで,倫理的な検証は基本的に行わないし,あっても,そういう機能をあまり重要視されていない.

生命科学分野も倫理的問題が重要視されるが,ロボット工学などにおいては,海外では軍事利用が主流だ.エンジニアは何が可能なのかというのを考える前に,どういう世界が理想なのということをもう少し考えるべきなのかもしれない.