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2016年9月24日土曜日

海堂尊さんの本を読んでAi(Autopsy imaging)について知ったこと



海堂尊とは

海堂さんといえば、ミステリー作家としての一面が有名でしょう。
代表作はなんといっても、映画化もされたチーム・バチスタの栄光などのミステリー小説です。

しかし、本職は別にあり医学博士で病理医として働かれていました。本名は江澤英史さんというそうです。

もともとミステリー小説を書いたのも、彼が提唱したAiを普及する活動の中で書き始めたものです。
小説の方はまだ読んだことがありませんが、Aiを織りませだ作品になっているとのこと。

小説を書いた経緯を本書で、海堂さんはこう述べています。
"よく誤解されるが、実はこの小説はAi普及のために書いたのではない。面白くかっこいい物語を書きたかっただけだ。だが、Aiの活動をしなければ材料を消化できず、物語の推進力を得られなかったのも事実だ。つまりAiと不即不離の物語だ。"

才能ある人は羨ましいものです。二兎を追って二兎を得ている気がしますね。

確かに実際に本書を読むと、Aiの活動が物語の推進力を得たというのは納得できるものがあります。
なぜなら、Aiを普及しようとする活動は、Aiの意義を信じる海堂さんと、その周りの立場の違う人々の政治的な駆け引きがあるので、それ自体が一種の小説であり、その中で物語的な世界を想像してしまうのも理解ができます。ただ、それを多忙の中で形にでき、多くの人から支持を得る作品にしあげることは、凡人には困難な作業だと思います。

さて、そんな海堂さんが提案したAiとは一体何なんでしょうか?

Ai (Autopusy imaging)とは
※Ai 人口知能のAIとの誤解を避けるために小文字のiを利用しているとのことです。

一言でいってしまえば、死亡時にCTやMRIで画像診断し、きちんと死因を解明しましょう。といえるのかと思います。また、重要なのは、解剖だけでは社会構造上対応できないし、情報的な質も異なる画像診断も用いることで、有益な情報を多くの人が共有できるようになる。という点です。

Aiの有用性をきちんと理解するためには、死因を理解することの重要性と、そのうえでAiを利用するメリットを理解する必要があると思います。

死因を理解することの重要性
海堂さんの本を読むまでは、死んだ人にお金や時間をかけることの意味をあまり理解していませんでした。「死因不明社会(ブルーバックス)」で、以下のように死因の不明に関する問題提起をしています。

(以下引用 一部書き換え)
①身内の死因が確定されずに済まされる。このため医療過誤発見が困難になったり、保険金請求で問題が生じる・・・本当の死因が不明なら、問題があったかどうかをどう判断するのだろうか。
②診療行為の効果判定が正確にされない。死亡時の医学検索が行われなければ、再発か、治療で完治したが別疾患の併発で死亡したのかはわからない。現状で解剖が行われなかった場合、治療効果判定は行われないことになり効果的な治療法の確立はできない。
③・・・異常死体の多くは、体表から調べる検案(あるいは検死)だけで死因を確定される。体表から見ただけでは死因は確定できないことは素人にもわかる。かくて殺人や虐待は看過され、犯罪が繰り返される。
④死亡統計が不正確になる。統計は医学の基礎だ。治療法が功を奏した例は○○例中✕✕例、したがって奏効率△△パーセント、というようなデータを基礎にし、治療の有効性が決定される。死亡時医学検索が行われなければ土台が崩れるから、当然医学が壊れていく。
(引用終わり)

③に関しては、そもそも警察がきちんと異常死として拾い上げられないというリスクも、多くの事例から述べられています。異常死が拾い上げられない場合は、その犯罪がそもそも見過ごされるということになります。また、体表だけからの情報からの死因特定が誤る可能性が高いことも想像できることです。

また、②と④がないがしろにされるのは素人目線ながら不安を覚えます。医療の成果の一つを判断するのに、治療効果の判定は重要なのではないでしょうか?結果的に何が死因だったのかはよく分からない。というのは、自分達の仕事の成果がよく分からない。ということに繋がらないでしょうか?つまりは、それは本当に効果的な医療ができていると言えるのか。という不安を覚えます。

もちろん①に関しては、親族としてはきちんと死因を知りたいという思いは強いでしょう。また、医療過誤が疑われる場合、病院側も死因がクリアになることで責任の所在がはっきりするので、社会全体としてはプラスになります。

こういった問題を解決するには、まずはしっかりと死因を解明する必要があると述べています。

・現状はどうなのか?

死因を解明する必要性はわかりました。では、現状の死因の診断はどうされているのでしょうか?

日本では監察医制度がありますが、解剖を実施し死因を診断されるのは2%程度。それ以外は、ある意味外見のみから死因が診断されます。更に、臨床診断と病理診断が異なることは10~30%程度起こり得ているという研究結果も出ているとのことです。

こう考えると、ほとんどの死因はよく分からないか、間違っていることがあるのが世の中の常識になっていると想像できます。

また、日本の監察医制度は地域による格差が大きく、東京などの大都市では機能するが、それ以外はほとんど機能していない、もしくは存在しないという現実があります。つまりは、地域によって得られる医療の質が異なってしまうという問題もある訳です。

・では何故Aiが良いのか

死因を推定する方法はAiだけではありませんが、Aiが優れている点はなんでしょうか?
本書からAiの有効性について、抜粋してみました。

解剖の欠点を補いやすい利点が多数あるようです。例えば、
・広範囲の組織検索が行いやすい。
・腹水などの液体の存在状況が観察できる。
・解剖の質は均一性が困難だが、Aiでは実施しやすい。
・傷をつけないので、患者の遺族から理解が得やすい。
・医学情報を迅速に遺族に伝えやすい(解剖は診断結果が出るまでに時間がかかる)
・コストが解剖に比べて安い
・遠隔診断も可能なので、中立的な診断が行われやすい
・画像は保存しデーテベース化しやすい

また、日本の場合は、CT/MRI先進国のためインフラが比較的整いやすいという利点もあります。解剖の方が死因の特定率は75%と高いですが、AiもMRIなどを用いれば60%近くの死因の特定が可能なようです。

何よりも強調したいのが、解剖で死因特定を増やそうとすると、人的にもコスト的にも足りないので現実的に困難であるが、放射線技師や放射線科医の人数を考えるとAiを導入するのはまだ現実的な解であるだろう。という点です。

そう考えると、良いことづくしのAiに聞こえますが、何か問題があるのでしょうか?

・具体的な問題は何か

何事もそうですが、やはりヒト・モノ・カネを誰がコントロールし、設計するのか。ということになるのでしょう。
得にAiの場合は、カネを誰がどれだけ払うのか。誰が診察/撮影をするのか。という点が問題になります。
撮影をするのは放射線技師がいますが新たな業務の発生になります。診察は放射線科医か法医学の人間が行うのか。診療報酬が死者には出ないので、誰がお金を払うべきか?病理医の解剖との連携はどうするのか?といった課題が発生する様です。

医療の場合は公共性の高い仕事になるので、カネの設計をするのは厚生労働省になるでしょう。報酬がどう定義されるかで、医療現場の人々のインセンティブは大きく変わります。民間病院になればその傾向は顕著です。また、制度設計がしっかりしないと、現場では歪が生じてしまうのは素人からみても明らかです。

・国が決める部分が多い
・各学会で考え方が異なる
・医者の世界には白い巨塔的な側面がある
こういった状況を勝手に想像すると、政治的なアレコレが発生するのは想像しやすいところです。実際に著者の海堂さんもこういった渦中に飲み込まれ闘っていくわけです。それは、本書"ゴーゴーAi"を読んで頂ければよく分かることです。

海堂さんの主張するAiは以下のAiプリンシプルを読めば明らかです。
①Aiは医療現場の終点で医療従事者が行う
②Aiを行ったら診断レポートを作成し、その情報を遺族と社会にオープンにする
③Aiの費用は医療費外から医療現場に支払われる
プリンシプルとしてはよく理解できます。

個人的には以下の点が疑問としてあがってきます。
確かに、Aiは解剖より安くすむが、多くの人がスクリーニングのように実施するだけの費用を出すのは現実的には難しいのではないでしょうか?
また、そこまでの費用対効果があるかは現状として解明されているのでしょうか?
まずは優先度が高い人から実施するのが理解しやすいが、1個人としては、少なくとも患者が希望すれば実施できるようにあって欲しいと思います。しかし、そういった体制はどこまで作られているのでしょうか?

・最後に

なにはともあれ、2007年に「死因不明社会(ブルーバックス)」にて、以下のようにAiの制度導入の困難を述べていた海堂さんが、2011年の「死因不明社会2(ブルーバックス)」では、Aiの制度化への予言をもとにあとがきを終えているのは、感慨深いです。
こうやって社会制度が大きく変わり医療現場が変わっていくことに感動を覚えますが、同時に、新しいことを実施することが如何にハードルが高いかも伝わってくる面があります。

「死因不明社会(ブルーバックス)」プロローグより引用
”私は、Aiが制度として確立して欲しい、と祈るような気持ちで本書を上梓した。だが、そう言いながらも、このシステムが日本に根付かなければ、それはそれで仕方がない、という諦めの気持ちも半分混じっていることは、正直に告白しておきたいと思う。”

「死因不明社会2(ブルーバックス)」あとがきより引用
”2007年に前著『死因不明社会』を執筆して4年。社会のAiに対する理解が進んだことは、本書執筆陣を見れば一目瞭然だ。Aiは他分野の人々に広がり、その支持は確実に浸透している。本書が一般市民のAi理解に貢献し、日本社会に早晩、Aiを基本にした新しい死因究明制度が出現することを予言しつつ、擱筆したい。”

これをきっかに、チーム・バチスタの栄光を読んでみようと思います。





2016年7月22日金曜日

ミニーおばさんって誰? Who is Aunt Minnie ?

画像診断のトリビア
画像診断のトリビア
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百島 祐貴
中外医学社
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画像診断の専門ではない自分には、取るに足らない事実(トリビア)が、その業界の背景を知る助けになって勉強になりました。

印象的な点をいくつか残します。

・硫酸バリウムは無毒だが、硫化バリウムは毒性がある
・ビスマスが有望だったが、大量に投与すると血液毒性がある事がわかった。
・バリウムは小麦に混ぜて重量をごまかしていたことから、安全では?と考えられた。

・血管造影を安全に実施するためのセルディンガー法を発見したセルディンガー氏はセルディンガー法では、学位がとれなかった。(単純すぎた)

・哺乳類の脊椎はほどんとが7個。これは、Hox遺伝子の影響が大きいとされている。
・フェルソン先生が提唱したシルエットサイン。「Fundamentals of Chest Roentgenology」フェルソン先生は鉄板。
 
・コントラストがないと病変はみえない。

・胆石内ガス像はメルセデス・ベンツサイン
・仙骨不全骨折の骨シンチグラム所見としてホンダサイン

・ミニーおばさんは誰か?
 ここでもフェルソン先生が由来だったんですね。

・シマウマ診断(Zebra diagnosis)
 一般的でない、まれな診断。(他人が診断できないような所見を見つけようと、変わった診断をすることを抑える意味がある)

・IVR→IR
 RI→NM(nuclear medicine)
 日本でしか使われなてない

2012年8月6日月曜日

確かに。放射線科医はおもしろそうだ。


だから放射線科医はおもしろい! 電子書籍アプリ版 App
カテゴリ: ブック
価格: ¥1,000


健康で周りに病気の方もいなければ、”放射線科医って何?”という方もいそうだが、そういう人でも読める本です。

この本は以下のことを知るのに良い本です。

・放射線科医について
 放射線科医がドクターズドクターと呼ばれる理由。放射線科医を見直すのに非常に重要な本だと思います。また、日本の放射線科医の実情も分かります。

・米国の放射線科医の実態
 米国の遠隔画像診断の実態。また、年収1億円といわれる、米国の放射線科医事例を知るには、分かりやすい本だと思います。更に、遠隔画像診断の安全に関する取り組み” Patient Safety”に関する活動などは、多くの人が知りたいところだと思います。

・日本の遠隔画像診断の実情
 日本の遠隔画像診断でのリーディングカンパニーといわれている株式会社ドクターネットの創業をされた著者による日本の遠隔画像診断の実態を知ることができます。日本では、”放射線科医=勤務医”という常識だった時代に、変化をもたらしたようです。

・画像診断の国際化へ
 米国、日本という実情を読めば納得するように、今後は画像診断に対して、ひとつの大きな国際化の枠組みができていくであろうことが分かります。その辺りに関しても、簡単に言及されています。

 日本の医療崩壊に対する言及もされていますが、これに関しては本ブログで紹介した、改革のための医療経済学 Health Economics for Reform 兪 炳匡に詳しいです。

 
本書を読んでいると実感しますが、医療画像がデジタル化し、クラウド化が進むにつれ、遠隔画像診断により医療の世界が大きく変わっていることが分かります。

著者が提案する、”顧問医”の仕組みでは、早期診断できる状態を作りあげるのがひとつのキーだと思います。クラウド化や医療画像の標準化が進みつつある今では、今後より障害が少なく、なおかつ低コストで画像をとれるデバイスやモダリティの進化も重要となるのではないでしょうか?

体内の見えなかったものが、以前より低侵襲で簡単に見えるというのは、一人の健康だけでなく、社会システムも含めて大きな変化をもたらすことなのだと、改めて実感させられました。

2011年5月20日金曜日

放射線と健康 舘野 之男





個人的事情もあって、放射線の本を一般書だけで、10冊弱消費した(正直一般書ばかり読み過ぎた。)。個人的には、放射線医学を専攻するこの著書が一番役にたっただけでなく、現在の低量の放射線に対する議論や、安全基準に関して比較的中立に書かれているので、最も人に薦められます。しかし、個人的によく理解できたのは、いくつかの主張の異なる本を読んで知識を得ていたからかもしれません。そして、中立的なのもあって、情報量が多いので、人によっては少し理解が難しいかもしれません。また、内部被曝に関する議論があるとよりよい本だと思います。

これより先は、僕のメモです。

電離放射線は種類だけでなく、もっているエネルギも重要

X線とγ線はエネルギが低い時は、光電効果によるエネルギ損失が発生しやすく、ある程度大きいとコンプトン散乱が発生する。エネルギーがさらに大きい時は、原子核の近くを通る際、原子核の電界の中で陰陽一対の電子を作り、自身は消滅する、電子対生成がおこる。さらにエネルギーが大きい場合は、光核反応がおき、原子核との衝突の際に中性子が発生する。

放射線影響の観点からみれば、吸収したエネルギーが同じであれば、コンプトン散乱でも光電効果でも同じ。しかし、医療でのX線診断と放射線治療では、これが影響する。X線診断では光電効果のエネルギー領域を用いて、骨や筋肉の光電効果の吸収線量の違いを利用してコントラストのある画像を生成する。一方放射線治療では、コンプトン散乱が多く起きるエネルギー領域を用いる。コンプトン散乱による吸収線量は、電子密度に由来するので、組織により大きな変化はない。

確率的影響と確定的影響

著者は、放射線の議論を一般の人にわからなくしているのは、この確率的影響と確定的影響があるからだという。実際、僕もそう思う。特に、この確率的影響と確定的影響を議論する際に、使うべき単位も変わってくるので、理解に難儀する。前者は実効線量(シーベルト、レム)で議論し、後者は吸収線量(グレイ、ラド)をもとに議論をするのが一般的らしい。そして、更に実効線量は、中性子線の場合は、がんの発生を指標とした場合と、骨髄障害や、がんの治療を目的とした場合など、目的の指標で、また異なる。その場合は単位もシーベルトとの混乱を避け、グレイ当量などと呼ばれる。

更に確定的影響は、閾値で議論されるので、比較的分かりやすいが、確率的影響は専門家でも考え方が別れる上、歴史的にICRPも紆余曲折してきたせいで、より理解に難儀する。(とはいえ、あまり解明されていない内部被曝に対する心配が少し残る気がするが。)

放射線業務にあたる人の安全は多くの過去の失敗から築かれた

放射線が発見されて間もない頃には、多くの事故が発生した。例えば、イギリスの研究では、1920年まで、放射線業務をしていた人たちは皮膚がん、膵臓がん、白血病による死者が有意に多かったが、1921年以降に放射線業務の道に入った人では、がん、白血病の発生率は普通の人と有意の差はない。これは、多くの地道な安全対策が生んだ結果である。

確率的影響の歴史的な紆余曲折

ショウジョウバエの実験結果から、直線しきい値なし仮説は遺伝的影響に対して、最初は主に議論されていた。しかし、マウスの実験では、いくつかショウジョウバエで得た仮説と矛盾する部分が発生した。また被曝した人の遺伝調査からも、被曝二世に遺伝的影響が認められなかった。動物では確認できても、人には確認できない遺伝的影響。残念ながら人では統計的誤差以上の結果を得ることができない。(この本では、その遺伝的影響を科学的に探るために、ヒトゲノム計画の出発点が生まれたと述べられている。)そして、被曝者のデータから重要だったのは、遺伝よりもがんの問題だった。そこで、「遺伝よりもがん」の時代へと変わる。そして、ここでも遺伝子が関連するので、直線しきい値なし仮説が適応されようとする。(しかし、多くの現場従事者はがんにも閾値があると考えていたようだ。)これは、より防護の観点から安全側にICRPが身を置く必要があるからである。この「遺伝からがん」の変換により、主に対象とするリスクの矛先が社会全体のリスクから被曝者へのリスクへと変わることになる。そこで、どうリスクを評価すべきかというのが現代の論争である。

また、実際の所の低放射線の人体への影響はよくわかってない。今までも、このブログでは、放射線に関する題材で触れてきたが、ホルミシス効果や、ペトカワ理論、人間の細胞の修復機能など、様々な議論がなされている。(内部被曝の脅威人は放射線になぜ弱いか)更に、被爆(広島や長崎)した人をもとに低線量のモデルを作成するので、スケールが全く違う中で、影響を想定することに対する難しさ、また一度に被曝した場合と、徐々に被曝するなどの違いによる影響の差などが考慮されていない、という指摘もあるようだ。

最後に著者は、この「遺伝的影響からがん」のリスクへの変換を、非常に重くみており、まだより検討すべきではないかと婉曲に主張している。

医療におけるリスクへの取り組み

著者は、医療診断のベネフィットと患者の被曝に対するリスクを長年評価してきたようである。ICRPの直線しきい値なしモデルを用いて、様々な検診が何歳以上からメリットの方が上回るかなどという研究を行っており、それ自体はおもしろい試みで、それにより、医療機器メーカーは劇的な低線量化の成功の動機にもなったようである。更に、著者自体は、ICRPの控えめなモデルを無くして考えれば、最近の疫学調査や一人の患者発見のベネフィットの大きさを述べ、X線検査程度の被爆量では、ベネフィットのが大きく上回ると主張している。


個人的には、医療からみた被曝の議論、確率的影響の歴史的経緯や、様々な放射線事故の事例を歴史を振り返るように知ることができたのでおもしろい一冊でした。


参考

2011年5月7日土曜日

内部被曝の脅威 肥田 舜太郎 鎌仲 ひとみ





最近、個人的理由から、放射線についての本を多く読んでいます。そのうちのひとつの本で印象深かったのがこの本です。現在の福島の話にも影響があると思うので、自分なりに考えたことをまとめました。

今の原発の問題でいえば、以下の要因が、多くの人を混乱させているような気がします。それは、内部被曝と外部被曝の違いや、低放射線の影響の専門家の判断の違いです。

内部被曝について

多くの福島に関する論争が、内部被曝について未だ議論が決着していない事を無視して、主張されている気がします。確かに多くの専門家でも判断が別れる所のようですが、内部被曝の問題を抜きに、多くを語るのは無理がありそうです。

内部被曝について扱う書籍ではよく書かれることですが、ICRPの基準には内部被曝の影響がほとんど考慮されておらず、広島や、様々な原発の関係施設の周辺住民は、内部被曝を考慮にいれれば、被曝により健康に影響を生じた人は多くいると主張します。

そもそも、内部被曝とは、放射性物質を体内に取り込むことにより生じる長期的な被曝です。放射性物質と細胞の距離が短いために、体外被曝の場合は無視される、アルファ線(ヘリウム)とベータ線(電子)の影響を受けやすい特徴があります。このふたつの放射線は、物質との相互作用が強く、"アルファ線は空気中で四五ミリメートル、体内では〇・〇四ミリメートルしか飛ばず・・貫通力は弱い。ベータ線は空気中で約一メートル、体内では約一センチメートルである"といった特徴があります。一方で、よく聞くガンマ線とエックス線(光子、電磁波)は、物質との相互作用が弱く、貫通力が強い。アルファ線は、紙一枚で遮ることができますが、X線などはある程度厚みのある鉛などを用いないと遮ることができないという性質があります。より貫通力の強い放射線としては中性子線が知られています。物質との相互作用が強いということは、体内でエネルギーを消費し、ピンポイントに細胞に影響を及ぼしてしまうということです。

被曝をした際に生じる電離作用は、化学変化などを細胞内で生じさせ、人体に影響を与える毒物を生成したり、DNAの破壊などを起こすことになります。もちろん、このような人体の影響は体外からの被曝でも一緒の部分が多く、人体の優秀な修復機能により微量であれば無害という主張や、わずかであれば気にしなくて良いという議論が多いと思います。前回紹介した人は放射線になぜ弱いかでは、まさに微量の放射線は人体に影響はないという主張で、むしろ健康に良いというホルミシス効果についても触れています。

この書籍では、"「微量な放射線であれば大丈夫」という神話への挑戦が、まさに本書の真髄である"と文中で述べているように、これらの議論に反論を行っています。そのひとつとして、ペトカワ効果について述べています。これは、"「長時間低放射線を照射する方が、高線量放射線を瞬間放射するよりたやすく細胞膜を破壊する」・・・これまでの考えを一八〇度転換させた・・・学説である。"なぜ、微量の放射線の長時間照射が細胞を破壊しやすいかというと、電離効果によって生じる活性酸素(フリーラジカル)が、適度に存在する状況を発生させやすいからと考えられています。活性酸素は、老化の原因や細胞の破壊の原因と考えられています。しかし、量が多すぎるとまた電気的作用を互いに発生させ、普通の酸素に戻ってしまうことが知られています。そのため、微量の放射線を長時間というのが内部被曝の上で影響を与えやすいと考えられています。(ちなみに、放射線によるフリーラジカル化は、タイヤなどの工業製品にも応用されています。放射線利用の基礎知識 (ブルーバックス)より)

では、内部被曝がどれだけの人に、どのような影響を与えたのかということに関しては、具体的な数字が乏しく感じますが、著者は、広島で多くの患者にみられた、ブラブラシンドロームは、この内部被曝でないと説明ができないとしています。また、内部被曝を考慮したとするECRPと考慮していないとするICRPの、戦後の被曝による癌による死亡者数の劇的な換算の違いなどが、ひとつのヒントになるかもしれません。また、アメリカの統計学者のグールトは、アメリカの婦人の乳がん死亡者が二倍になったことを調査した際に、原発施設の周辺で乳がん患者が増加していることを発表しています(しかし、僕は読んでいませんが、この書籍の原典に対する批評は非常に辛口で、星1の評価が多い。http://www.amazon.com/Enemy-Within-Birthweights-Radiation-induced-Deficiency/dp/1568580665/ref=cm_cr_pr_product_top )。

いずれにせよ、放射性物質を体内に取り込む可能性がある場合は、人や物質により影響は異なるものの、注意を怠らない方が良いと考えられます。また、低量の放射線に長時間あたる場合は安全と言い切るのは難しいのかもしれません。残念ながら、僕は専門家でもないので、結論は出ませんが、一般的な生活を送る上では心配する必要はないでしょう。

微量放射線の問題

人は放射線になぜ弱いかでも触れましたが、まだまだ議論が決着していない部分があるのが、微量放射線の分野のようなので、慎重にな態度をとるのが一般的な心情かと思います。また、微量放射線の影響については、以下の資料が個人的にはよくまとまっていると思いました。(以下の資料には一部内部被曝について書かれています。)

書籍全体としては、広島の原爆の際に、実際に医者として患者の治療にあたった肥田 舜太郎氏が書き上げている、第2章と第3章は非常に参考になるので、一読の価値ありです。(一方、鎌仲 ひとみ氏が書いたと思われる部分は感情的すぎる気がします。)医者としての体験と、内部被曝のメカニズムから、どのような危険性が考えられるかを述べており、反対意見の要約も掲載し、読者に対して親切です。放射線に興味のある方は読んでみると良いと思います。

参考

2011年4月29日金曜日

人は放射線になぜ弱いか  近藤 宗平





ものを怖がらなさすぎたり、怖がりすぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい。

著者は長年研究者として活躍し、物理学、遺伝学、基礎医学に従事し、放射線とは広島の原爆の時代から関わっている。この著者の主張は分かりやすく、低放射線に害はなく、現在一般的に使われている、閾値なし直線(LNT)仮説が誤っているという主張が本の主題のひとつである。また、この本を読むと、低量放射線の人体の影響に対して、意見が大きく専門家で別れているのも理解できる。

福島の話題がある今、内容がタイムリーなので多くの人がブログで批評をしているが、その反応は基本的に賛成する人と、一部賛成だが、本の主題のひとつである、微量の放射線は問題ないと言い切るのは難しいのでは?という意見に大きく別れる気がする。個人的な結論としては、まだ慎重な態度をとれば後者の考えに近いが、確率的にみて個人のレベルでは前者である。

何故そういう風に考えるのかというと、他のブログのエントリの記事の考え方と似ている部分があり、著者の意見を丸々賛同できない。同時に、多くの放射線を扱ってきた現代社会を考えて、変に心配してもしょうがないという結論にひとまず至ったし、微量の放射線が体にいいかもしれないが、一方で確率的に個人のレベルで健康を害したとしても、それを気にして生活していてもしょうがないレベルと思ってしまった。もちろん大量被爆する可能性があるような世の中になるなら話は別だが。

他ブログ

個人的には、第二章最後のマウスの遺伝病の結果とヒトに対する遺伝病への話の飛躍の仕方にも違和感を感じた。

残念ながら、この本を読んでも正当に怖がることはできないが、この本を読まない場合は、いつまでたっても正当に怖がることはできないだろう。

参考

内部被曝の脅威
放射線と健康