2011年5月7日土曜日

内部被曝の脅威 肥田 舜太郎 鎌仲 ひとみ





最近、個人的理由から、放射線についての本を多く読んでいます。そのうちのひとつの本で印象深かったのがこの本です。現在の福島の話にも影響があると思うので、自分なりに考えたことをまとめました。

今の原発の問題でいえば、以下の要因が、多くの人を混乱させているような気がします。それは、内部被曝と外部被曝の違いや、低放射線の影響の専門家の判断の違いです。

内部被曝について

多くの福島に関する論争が、内部被曝について未だ議論が決着していない事を無視して、主張されている気がします。確かに多くの専門家でも判断が別れる所のようですが、内部被曝の問題を抜きに、多くを語るのは無理がありそうです。

内部被曝について扱う書籍ではよく書かれることですが、ICRPの基準には内部被曝の影響がほとんど考慮されておらず、広島や、様々な原発の関係施設の周辺住民は、内部被曝を考慮にいれれば、被曝により健康に影響を生じた人は多くいると主張します。

そもそも、内部被曝とは、放射性物質を体内に取り込むことにより生じる長期的な被曝です。放射性物質と細胞の距離が短いために、体外被曝の場合は無視される、アルファ線(ヘリウム)とベータ線(電子)の影響を受けやすい特徴があります。このふたつの放射線は、物質との相互作用が強く、"アルファ線は空気中で四五ミリメートル、体内では〇・〇四ミリメートルしか飛ばず・・貫通力は弱い。ベータ線は空気中で約一メートル、体内では約一センチメートルである"といった特徴があります。一方で、よく聞くガンマ線とエックス線(光子、電磁波)は、物質との相互作用が弱く、貫通力が強い。アルファ線は、紙一枚で遮ることができますが、X線などはある程度厚みのある鉛などを用いないと遮ることができないという性質があります。より貫通力の強い放射線としては中性子線が知られています。物質との相互作用が強いということは、体内でエネルギーを消費し、ピンポイントに細胞に影響を及ぼしてしまうということです。

被曝をした際に生じる電離作用は、化学変化などを細胞内で生じさせ、人体に影響を与える毒物を生成したり、DNAの破壊などを起こすことになります。もちろん、このような人体の影響は体外からの被曝でも一緒の部分が多く、人体の優秀な修復機能により微量であれば無害という主張や、わずかであれば気にしなくて良いという議論が多いと思います。前回紹介した人は放射線になぜ弱いかでは、まさに微量の放射線は人体に影響はないという主張で、むしろ健康に良いというホルミシス効果についても触れています。

この書籍では、"「微量な放射線であれば大丈夫」という神話への挑戦が、まさに本書の真髄である"と文中で述べているように、これらの議論に反論を行っています。そのひとつとして、ペトカワ効果について述べています。これは、"「長時間低放射線を照射する方が、高線量放射線を瞬間放射するよりたやすく細胞膜を破壊する」・・・これまでの考えを一八〇度転換させた・・・学説である。"なぜ、微量の放射線の長時間照射が細胞を破壊しやすいかというと、電離効果によって生じる活性酸素(フリーラジカル)が、適度に存在する状況を発生させやすいからと考えられています。活性酸素は、老化の原因や細胞の破壊の原因と考えられています。しかし、量が多すぎるとまた電気的作用を互いに発生させ、普通の酸素に戻ってしまうことが知られています。そのため、微量の放射線を長時間というのが内部被曝の上で影響を与えやすいと考えられています。(ちなみに、放射線によるフリーラジカル化は、タイヤなどの工業製品にも応用されています。放射線利用の基礎知識 (ブルーバックス)より)

では、内部被曝がどれだけの人に、どのような影響を与えたのかということに関しては、具体的な数字が乏しく感じますが、著者は、広島で多くの患者にみられた、ブラブラシンドロームは、この内部被曝でないと説明ができないとしています。また、内部被曝を考慮したとするECRPと考慮していないとするICRPの、戦後の被曝による癌による死亡者数の劇的な換算の違いなどが、ひとつのヒントになるかもしれません。また、アメリカの統計学者のグールトは、アメリカの婦人の乳がん死亡者が二倍になったことを調査した際に、原発施設の周辺で乳がん患者が増加していることを発表しています(しかし、僕は読んでいませんが、この書籍の原典に対する批評は非常に辛口で、星1の評価が多い。http://www.amazon.com/Enemy-Within-Birthweights-Radiation-induced-Deficiency/dp/1568580665/ref=cm_cr_pr_product_top )。

いずれにせよ、放射性物質を体内に取り込む可能性がある場合は、人や物質により影響は異なるものの、注意を怠らない方が良いと考えられます。また、低量の放射線に長時間あたる場合は安全と言い切るのは難しいのかもしれません。残念ながら、僕は専門家でもないので、結論は出ませんが、一般的な生活を送る上では心配する必要はないでしょう。

微量放射線の問題

人は放射線になぜ弱いかでも触れましたが、まだまだ議論が決着していない部分があるのが、微量放射線の分野のようなので、慎重にな態度をとるのが一般的な心情かと思います。また、微量放射線の影響については、以下の資料が個人的にはよくまとまっていると思いました。(以下の資料には一部内部被曝について書かれています。)

書籍全体としては、広島の原爆の際に、実際に医者として患者の治療にあたった肥田 舜太郎氏が書き上げている、第2章と第3章は非常に参考になるので、一読の価値ありです。(一方、鎌仲 ひとみ氏が書いたと思われる部分は感情的すぎる気がします。)医者としての体験と、内部被曝のメカニズムから、どのような危険性が考えられるかを述べており、反対意見の要約も掲載し、読者に対して親切です。放射線に興味のある方は読んでみると良いと思います。

参考

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