2015年11月8日日曜日

小説家 村上春樹に学ぶプロフェッショナルになるための6つの条件

職業としての小説家 (Switch library)
村上春樹
スイッチパブリッシング (2015-09-10)
売り上げランキング: 106

小説にかぎらず創作活動をする人は、自分の中に深く潜りながら、作品を長期間作り続けていく必要があります。体力も気力もいる大変な仕事です。

本書は、小説家として創作活動を長く続けてきた、村上春樹さんの仕事への取り組み方が垣間見える一冊です。

そんな本書から、プロフェッショナルとして創作活動を続けるために学びたいと思ったことピックアップしました。

その1 現状を変化させるために、新たなことに挑戦する

・海外への進出

初めて書いた小説が新人賞を受賞し、1987年に出版した「ノルウェイの森」が国内で異例の大ヒットを記録するなど、小説家としての成功を早い段階から納めていた村上さん。

しかし、小説家としての安定が見えてきた前後に、海外へと活動拠点を移し、更には海外での出版を積極的に進めるなどの活動を始めています。

その理由の一つに、自分の環境を変える必要性を感じていた”から。と述べています。

また、環境をただ変えるだけではなく、米国では、自らエージェントや出版社を探すなど、四十代にして、自分を”新人状態”へと戻した。と語るほど、新たな挑戦も行っています。

それらの新たな挑戦の成果は、欧州や米国、アジアなど広くに読者を獲得し、今では全米の新刊売上部数ランキングで1位を獲得するまでとなっています。 

・小説的テクニックの向上

小説的テクニックでも、自らの表現の幅を増やすために、新たな挑戦を行っています。

・言葉のもつ使い方を思いつく限り試してみる。
・1人称から3人称へ小説の書き方を発展させてみる。

など、技術的な表現方法についても、かなり意識して挑戦されていたことが本書を読むと分かります。

・挑戦はランニングにも
 
そういった日頃から挑戦する姿勢は、村上さんのライフワークであるランニングにも見られると思っています。100kmマラソンに挑戦した後、今度は、新たな舞台としてトライアスロンに挑んでいます。

しかも闇雲に練習するのではなく、きちんと自分なりに課題を見つけ、一つ一つ丁寧に改善しながら、ランニングを行っています。そういった姿勢も見習いたいものです。

その2 自分の内面に日頃からマテリアルをため、ある時に引き出す

・たくさんのガラクタは、ある日魔法で書くべきマテリアルに生まれ変わる

創作者は、自分の作品を作るために、内面から出てくる引き出しを持っている必要があると思います。

そういった引き出しを用意続けるにはどうするか。意外にその答えはシンプルで、”日頃からマテリアルを集めること”だったのです。

村上さんほどの人でも、そうなんだ。と僕は安心しました。

常日頃から、ある意味”ガラクタ”とも呼べる、”ある事実の興味深い細部”を記憶するようにしているそうです。それを自分の中でも無意識でも意識的にでも、反芻するのでしょう。

一つ一つのマテリアルや素材はガラクタでも、ある日それが魔法のようにつながり、書くべきこと、書くべきマテリアルへと変化する。

小説に限らず、いろんな分野に通じるのではないでしょうか?

・小説家としての成功の確信

ちょっと自分には信じられない、驚くべきことが本書には書いてあります。
ある意味、村上さんに関する”ある事実の興味深い細部”です。

村上さんが、小説を書き始めたきっかけについてです。
野球観戦をしていたある瞬間に、自分も小説が書けるかもしれない。と思い立ち小説を書き始めます。

これもなかなか興味深いエピソードですが、それだけではありません。

初めて書いた小説”風の歌を聴け”の選考結果が出る前に、ふと散歩にでかけた村上さん。

傷ついた伝書鳩を見つけ、交番に届ける途中で、ふとまた思い立ちます。

自分は、群像新人文学賞を受賞し、今後小説家として成功することに間違いない。と確信した。と述べています。

ちょっと信じられないですね。

ここからは、自分の勝手な憶測ですが、昔から小説を読み漁っていた村上さんは、自分が書いた小説の価値を無意識的に評価できたのじゃないでしょうか?

それが、何かのタイミングで、確信に変わった。
その瞬間を与えてくれたのが、伝書鳩だったのでしょう。

日々自分の内面に貯めていた色々なマテリアルが、違う意味をもって、意識的な所に上がってきた瞬間だったのかもしれません。

得に、村上さんは、最初の段階から書きたい小説の理想があった。とも述べています。
これも、昔から小説を読んでいる人じゃないと難しいだろうな。とも思います。

もちろん、こういった無意識的な話だけではなく、小説を書く時は、意識的にマテリアルを引き出し、書いている。とも述べています。

自分の中に、必要なマテリアルをため、それを引き出していく。非常に重要なことだと思います。


その3 公私共に信頼できる仕事仲間がいて、尊重した関係を築いている

・第三者のフィードバックをもらう

小説を一度書くと、何度か綿密に書き直しを実施するそうです。
その際に、必ず第三者からフィードバックをもらっている。とのこと。

しかも、指摘された所は、自分が納得しなくても、必ず書き直す。とのことです。

人に何か言われる。というのは、その指摘が正しいか正しくないかは別として、何か問題があるのは間違いないと考える。とのことでした。
(自分だったらそのままにしてしまうでしょう。。。見習うべきですね。)

指摘内容よりも書き直すということが大事。

また、フィードバックをもらう相手は、最初は奥さんと決めている。とのことでした。
長年の夫婦関係が、仕事にも重要な観測定点として機能しているのは、素敵なことです。

・翻訳者との信頼関係

小説において、作家と翻訳家はビジネス的な関係だけだと思っていました。
出版社が、適当な翻訳家を探し翻訳してもらい、海外展開する。
そんなシンプルな流れを想像していましたが違ったようです。

翻訳者は海外に展開する小説家にとって、とても大切なパートナーである。
と村上さんは述べています。

特に、翻訳者が一方的に骨の折れる仕事を実施しているのはフェアではない。
なので、ギブアンドテイクの関係でいないといけない。とも述べています。

そういった仕事の姿勢からか、何人かの翻訳者とはプライベートでも親密な関係を築いているようです。

自分が仕事をするうえでも、仕事の投げっぱなしがないようにしたいものです。それだけでなく、信頼できる仕事仲間を長期的に築いていきたいものです。

その4 長期的に集中できる基礎体力がある

たまたま良い作品を書くことができても、一発屋にならずに継続的に作品を築いていくには基礎体力がやはり必要です。

村上さんの場合は、言わずもがなジョギングがそれを助けているでしょう。

ジョギングについては、下記の本に詳しく書かれています。
読むと、走りたくなる本です。

走ることについて語るときに僕の語ること (文春文庫)
文藝春秋 (2015-08-28)
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その5 自分のやり方を見つける

本書には、何人かの小説家の仕事方法について、言及されています。
村上さんとの共通点も見られます。

とはいえ、村上さんの仕事への考え方、日頃の取り組み方(長編小説の時は、必ず原稿用紙1日10枚は書く。ほぼ毎日ランニングする。など)は、村上さんの環境、生い立ち、日々の試行錯誤の結果からできたものでしょう。

その働き方に適しているのは、村上さんだけでしょうし、他の人が真似しても、ベストな結果が得られるとは限りません。

大切にしたいことは、自分の中で試行錯誤して、自分なりな仕事に対するやり方や考え方を築いていくということでしょう。

その6 やりたいことをやる。だけでなく、顧客との関係も築いている

”全ての人を楽しませることはできない。だから、自分が楽しいと思うことをやればいい。”と本書では書かれています。

また、楽しいことや、求めていることを探すには、逆に何かを求めていない自分を探すことをアドバイスしています。

こういった、”自分が求めることをやるべきだ。”というのは、色々な方が述べていることです。自分も素直にそう思います。

でも、ここではもっと大事なことがあると思っています。

顧客である読者は無視しているのか?

というと、決してそんなことはないです。

村上さんはWeb上でホームページを開設し、読者のメールの質問に答えたり、海外では少し趣旨は違いますが講演などを行っています。

村上さんがそういった活動を続けた結果、”この人たちは総体として、とても正しく深く僕を、あるいは僕の小説を理解してくれているんだ”と認識したとのことです。

確かにフィジカルな意味で積極的ではないですが、きとんと読者との関係を大切にしている姿勢を自分は感じます。そもそも、”職業としての小説家”という本書を出す上でも、村上さんは我々読者との間の関係を今後も築いていこう、という意思を感じます。

少なくとも、独りよがりにならず、かといって読者に媚びて自分を崩さずに、村上さんと我々の微妙なバランス関係をうまく築いてきたからこそ、今でも多くの読者に期待される存在でいるのでしょう。



職業としての小説家 (Switch library)
村上春樹
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