2011年8月29日月曜日

ジョブズ・ウェイ 世界を変えるリーダーシップ Jay Elliot William L. Simon

ジョブズ・ウェイ 世界を変えるリーダーシップ
ジェイ・エリオット ウィリアム・L・サイモン Jay Elliot William L. Simon
ソフトバンククリエイティブ
売り上げランキング: 40916


ジョブズ・ウェイ 世界を変えるリーダーシップ

数あるJobs本の中でも、この本はシンプルでかつすばらしいメッセージを放っています。そのメッセージとはJobs風に言えば、以下の一言に収まるでしょう。

"Why join the navy if you can be a pirate?"

・起業家精神のある企業風土。
・なぜ、こうなのか?ではなく、なぜできないのか?
・次の成長、利益ではなく、価値観の変化を。世界を変える次の製品に。
・宝くじにあたったらあなたは仕事をやめますか?

数ある言葉で、ジョブズが情熱をどこにフォーカスしていたかをこの本では表現しています。そして、その驚異的な成果をもたらしたジョブズの精神は、ジョブズだけの専売特許ではないはずです。

また、ジョブズも自分が何に得意であるかと気づくまでには、多くの失敗に時間を費やしました。そして、僕達の得意な分野はジョブズとは違うはずでず。

もちろん彼ほどストイックになれる人は世界にはなかなかいないでしょう。
日本にはかつて盛田昭夫がいましたが。

そして、そんな彼らをこう呼ぶ人もいます。

ジョブズは発明ではなく盗作の天才だった

確かにジョブズの人生に大きなアイデアを与えたのは、HPのパロアルト研究所だったかもしれません。しかし、彼には製品を誰よりも愛し、世界を変えようとする情熱が誰よりもありました。彼は、エンジニア以上の情熱を持ち合わせていました。その結果のひとつが、ホリスティックな製品開発だったのかもしれません。

本気で変えようとする情熱家達を応援し、僕達もその一員になろうではありませんか。しかし、数字を追うだけで、製品を愛していない企業も残念ながら存在することも確かです。

news - HPのctrl+alt+delが英断どころか油断だらけの理由

あなたは、海軍の一員になりたいですか?海賊の一員になりたいですか?あなたが、海賊の一員になろうというなら、この本は読まなければいけないでしょう。あなたが、情熱を持って注ぐべき仕事は必ずあるはずです。

2011年8月7日日曜日

改革のための医療経済学 Health Economics for Reform 兪 炳匡

「改革」のための医療経済学
兪 炳匡
メディカ出版
売り上げランキング: 125472


医療政策を論じるならば、この本は必読。そして、多くの医療従事者も必読。様々な医療政策に存在する"誤解"を知るには良書。少なくとも僕は目からウロコの連続で、いかに医療に対する通説が間違っているか、政策決定の考え方が間違っているかを理解させてくれました。

まず、以下の文章を読むだけでも、個人的には衝撃的。"医療費高騰の犯人探しについて、今まで言われてきた5 つの要因(人口の高齢化、医療保険制度の普及、国民所得の上昇、医師供給数増加、医療分野と他産業分野の生産性上昇格差)は、あまり寄与していないことは欧米の実証研究が示唆している。これらの要因の寄与率を全て足し合わせても米国の総医療費上昇率の25~50%しか説明できない。残りの説明できない75~50%を占める、医療費高騰の黒幕ないし真犯人は、医療経済研究者の間では「医療技術の進歩」と予想されている。"また、予防医療が本当に医療のコストを下げない理由や、米国の医療の満足度が高いという識者の包括的分析の欠如。日本の政策決定のためのデータの決定的不足。多くが衝撃的です。また、日本の医療が偶発的に安くあがっているという事実も驚きできした。

ただ、強いて難癖をつけるならば、今叫ばれている医療改革制度が間違っていることは述べられているが、具体的に日本が直面している医療政策の問題と、解決策の提言を豊富に述べて欲しいところ。

しかし、それらを本当に議論するには、日本の政策決定を行うためのデータが著しく欠如している。つまりは、そこが問題なのだが、それだけでは読み物としては、寂しいものがある。

最後に、政策決定を決めるにはどういった理念を持つべきがという問題にいきつく。私たちがどういう世界を望むか。それは、私たち一人ひとりの読者の問題でもある。

以下は個人的メモ

2章 比較による医療の相対的位置づけ


ここでは、各国の指標を比較することの医療経済学における重要性を述べています。それと同時に、比較はあくまでも相対的なものであること、また、指標のつまみ喰いによる、特定の主張者の存在に注意を喚起しています。そして、日本は医療経済に対しのアカデミックな部分はやっと成長しはじめたばかりなようです。何はともあれ、相対的な位置を把握し、政策決定などの助けとしようとのことでしょう。

続いて、社会保証の支出の変動を実際の資料を使って議論します。よく、社会保障に使われる伸び率が大きいと言われているようですが、公共事業関係費よりも少ないとされています。そして、他国との比較では、先進国の中では医療に対する社会保障費が少ないようです。

ここで驚いたのが米国の医療支出です。"米国の社会保障に含まれる医療とは、公的医療プログラムである、全人口の14%をカバーする高齢者対象のメディケア(Medicare)と、約13%をカバーする低所得者対象のメディケイド(Medicaid)を補助・運営するだけでGDPの約6%を投じています。同じGDPの約6%を投じて、補助・運営される日本の公的医療保険が人口の100%をカバーしていることを考慮すれば、日本の医療は国際的水準からみても「安くあがっている」といえるでしょう。"とのこと。

また、個人の医療支出を含めて全医療費の支出でも、日本は英国と同じレベルで新興国の中で低い水準となっています。一方で米国の医療費は群を抜いて高いと言われています。そして、日本は「アクセス」(病院への受けやすさ)もかなりいいとのこと。待ち時間が長いといわれている日本の病院でも、海外から比べるとだいぶ良く、米国では15分の診断を受けるのに一週間の予約が必要であったり、保険会社が受ける医療機関を制限したりしているとのこと。また、有保険者とそうでない人の差別もやはりあるようです。

一般的に医療費が高い国が、医療の質が良いとされているが、その例外が日本と米国。日本は低いのに質が高く、米国は高いのに質が低い。日本の特徴としては、診療に従事する医師の数が少なかったり、CTやMRIの装備が数倍以上の規模であったり、現在は変わってきているが、「薬漬け診療」があったりしたよう。むしろ、今では「過少投薬」を心配する声も。また、医師の必要数の地域による偏りは大きいようです。

各国の医療満足度はデータのつまみ喰いの仕方や、患者の住む場所、患者が中流以上かそうでないかなどによる見方によって、大きく変わるようですが、全般としては日本は高い位置にいるようです。

3章 医療経済学に何ができるのか

医療経済学がどういうものなのか、どういう目的のある学問なのかということを、説明しています。経済学と経営学の違い、社会全体の効率と福祉を最大化し、資源をどのように配分するかなど、経済学の無縁の僕にも分かりやすく書かれています。特に、予防接種の一例は非常に勉強になり、「市場の失敗」についても学びました。このような、全体視点から物事を考える事も非常に今後大事だと痛感しました。

また、規範的な、しかも広い範囲を扱った、経済学の命題(「民営化によって医療全体の効率が向上するか否か」)についての、断片的な話があげられるときは、まず疑った方が良いと主張しています。このような命題に対して、単純明快な解は今後も存在せず、前提条件であるX,Y,Zがほぼ満たされた時に限り、解決策はAとなる。としか答えられず、おのずと答えも複数となる。

最後に、医療経済学を専門的に学ぶにはどうすれば良いかについて答えています。

4章 医療費高騰の犯人探し

本書のひとつの醍醐味はこの章にあると思います。従来、医療費高騰に寄与していると思われている、いくつかのファクターについて、小物(実際はそこまで寄与していなかった)であることを説明します。このような、間違った犯人を示すことは、政策決定上、意味のないものにヒトとお金を使う必要がなくなり、大変重要です。

高齢化社会が医療費高騰に寄与しているかの問いに、相関性なし、もしくは、あっても非常に軽微という研究結果が多いようです。これはかなり意外です。急性期の医療費はみなほとんど同じで、寿命に関係なく、介護医療費を上昇させると述べています。しかし、高齢者の総医療費の3分の2は急性医療費がしめています。しかし、もちろん、年金などによる財政の圧迫の可能性と、慢性疾患などについては厳密に判断できないと留保する部分もあります。

続いて、医療保険における医療費高騰についてです。ここでは、医療保険制度が必要か。という、根本的な疑問から議論しています。この手の議論には「RAND医療保険研究」がこの分野で、「知らなければモグリ」といわれるほど有名なようです。まず、保険制度がパレード最適配分という言葉で、社会全体の経済厚生を高めることができるとまず説明しています。しかし、モラルハザードが起こる可能性が医療には十分にあるため、最適な措置ではないが、次善の策であるという認識があることを説明しています。RAND医療保険研究をまとめた「Free for All」の内容は個人的に驚きました。患者負担レベルを分けたグループの、医療の受診率、健康状態、医療費などの違いについて調査したこの研究は、最終的にどのグループも、医療費全体の増大を起こさなかったと述べています。しかし、5%以上の患者負担がある方が、低所得者の健康状態は悪化します。しかし、健康な人にとっては、医療保険制度は資源の浪費、上述のモラルハザードを誘発し、患者負担が低いほどその度合いが顕著になるため、「Free for ALl」では、全ての人が窓口負担がゼロで受信できことに対して疑問を呈しています。本書では、モラルハザードの問題も含めて、功が罪を上回る可能性が十分あるため、「次善の策として必要」との合意に、多くの医療経済学者は至っていると述べています。

長期介護医療費は、総医療費からみればわずかですが、人口の高齢化が施設介護費を大きくあげているのは事実。また、家族介護を考えれば、精神的負担は大きく、財政上の問題も大きいのではないかと想像します。この部分の問題は、未だ良い解決策があるとは思えません。

5章 改革へのロードマップ

医療保険を民営化して大失敗をした米国や、チリ、フィリピンを例に議論が行われています。民営化=効率化という図式が簡単には当てはまらないこと。また、「最低限の医療は基本的人権」という理念を選択する以上、政府のある程度の介入は不可欠で、市場に任せた医療に困難が多くみられていることが述べられています。結果的に多くの諸国が民営化されていない保険のが効率が良いと述べられているのは、注目に値すると思います。また、各医療機関(病院)などが、市場原理主義的に競争にさらされても、医療費の効率が上がるとは限らないようです。(サービスは、費用を上乗せすることであがるかもしれません。患者の待遇など)また、地域に医療施設が少ない場所では、競争的医療市場が存在しない場所が多く存在するため、競争が意味をなさないとも言われています。また、民営化によって構造的二層化が生じると、効率が悪化するばかりでばく、後戻りがしずらいといったことも懸念されています。

日本の問題として、費用対効果・便益分析(CEA・CBA)が非常に遅れていることが指摘されています。インプットに対して、どれだけの健康などが促進されたかというアウトプットが、より一層あがるには、これらの考え方が重要かもしれません。

日本の医療機関はNPOで、株式会社の参入は許されていません。これは、医者が経営方針に依存する場合が多いため、効率化に対してよく疑問視される部分であるようです。しかし、株式会社が一部医療機関を運営している米国などは、残念ながら効率的とは反対方向の医療へと進んでいるようです。著者はここで、効率化を促進できるNPOの体制構築を提言しています。また、NPOのより一層の地域住民との関わり合いを促進するため、税控除などの法整備を行うべきだと主張しています。



統括として、日本は偶発的に他国と比べて質の高い医療を安く提供できた事実があります。しかし、昨今の医療政策を変えようという働きは、短絡的な見方が多く悪い方向に政策が転換される可能性は拭えません。医療経済学という観点から見るならば、投入した金額に対して、どれだけの健康を促進できたか。限られた資源を最も効率良く分配できたか。という視点からきちんと物事を考える必要があります。また、より一層の効率化のため、株式会社ではなく、NPOという形式の中で医療を改善していける法整備と、中立的な視点から議論を行うためのデータの収集が必要です。日本の医療政策決定が貧弱な印象を覚えるのは、データからモノを考えるという、極めて基礎的な仕組みができていないからなのでしょう。