2011年2月13日日曜日

SONYと就活



MADE IN JAPAN(メイド・イン・ジャパン)ーわが体験的国際戦略ー



グーグルで必要なことはみんなソニーが教えてくれた

僕は1987年にうまれた.
僕の同年代で,大学に入学した同期達は,就職活動を終えたか,これから迎えるか,もしくはまさに今健闘中の年代である.僕達の世代は,実感はないが,就職難と呼ばれる世代にいるわけで,同時にバブルも,Japan as Number Oneと呼ばれた時代も知らない.日本著書販促センターによれば,1987年のベストセラーの4位に,SONYの創設者の一人である,盛田昭夫氏のMade in Japanがランクインしている.僕はこの事実にがくぜんとした.僕の知っているSONYは,漠然とだが,ソニーショックを迎え,ウォークマンがiPodに負け,vaioや他製品も,他メーカーと比べて卓越したクールさを持っている訳でもなかった.

ひとつ先に述べておくが,僕は現代をさげすむ訳でもなく,バブルに浮かれた時代を熱望している訳でもない.自分はむしろ,自分に合った価値を見つけやすく,技術も格段に進歩を遂げた現代に生まれたことを,感謝しているくらいだ.ただ単純に,そこまで時代は変化したのかと,驚嘆したのだ.と同時に,このベストセラーランキングをきっかけに,盛田昭夫とSONY,日本の社会システムについて一段と興味が湧いた.

盛田昭夫

アップルの創設者であるスティーブ・ジョブズは,盛田昭夫のことを賞賛し,自分のプレゼンテーションでも,よくSONY製品を紹介していた.
そして,下の動画にあるように,盛田昭夫の死を憂いた.


Made in Japanは,戦時中の盛田昭夫の描写から始まる.盛田は当時,原子爆弾を作成した米国と日本の技術力の差を嘆いていたが,終戦後,戦時中に出会っていた井深大と,後のSONYを創業し,更にはTIMEの表紙を飾り,日米の貿易摩擦の象徴となる存在にまでなる.

率直で稚拙な感想で申し訳ないのだが,盛田昭夫は格好良い.当時のエンジニアやビジネスマンの憧れになるのも理解できる.日本の伝統的な家に長男として生まれ,日本社会的な人間でありながら,世界を股にかけて仕事をし,自分自信のバランスを失わなかったのは素晴らしいと思う.当時の盛田は,日本をこう紹介している"「日本は社会主義的・平等主義的・自由経済の国だ」"."日本は結局農耕民族の末裔であり,自然環境,四季の変化の影響を強く受ける文化,伝統,哲学を受け継いでいる,おそらくそのために,われわれは何事につけ,急がず,ゆったり構え,漸進的な変化を求めるのではないだろうか."端的だが,よくも悪くも日本をよく表し,理解していると思う.

何故,ほとんどゼロといえる,焼け野原の東京からスタートしたSONYが,あれほどのイノベーションを起こし,世界を震撼できたのだろうか?そして,日本の数少ないノーベル賞受賞者となった江崎玲於奈を輩出するような優秀な人材が集い,そして研究だけに終わらず,新たな電子デバイスを作成し,ビジネスまで発展させることができたのだろうか?残念ながら,当時を知らない私に,この本の情報からでは,想像することしかできないが,井深大や盛田昭夫の功績は非常に大きいと思う.彼らには,大きなビジョンが明確にあり,自分たちの考えを信じていた.と,同時に井の中の蛙になることなく新しいモノ・情報を常に模索し,変化を受け入れていた印象がある."最新の設備と予算をたっぷりつけた大型の研究所がありさえすれば,独創性は自ずと生まれるものだと政府は考えている.しかしそんな簡単なものではない.・・・・.人間というものは明確な目標なしには,なかなか本気で努力できないものだと思う"."フランスは「リサーチこそが勝負を決める」という信仰を抱き,これを実践した国である.そして実際数々の成果を手に入れた.・・・.しかし,家元のフランスは,これによって決して利益をあげなかった.・・・.私が言いたいのは,単にユニークな製品を作り出すだけでは,そして特にそれでよしとしてしまっては,本当のインダストリーとしての成功は達成できないということである.しかし忘れてはならないことは,それをどうビジネスに結びつけていくかということだ".本文を抜き出してみると至極当然のことに聞こえる.当時の彼らはアメリカの技術を吸収し,より良いものに改良を加え,世界を眺め,果敢に挑戦していく良い循環を作りだす才能があった.

辻野晃一郎

盛田昭夫氏がSONYの黄金時代を象徴する人物であるならば,辻野晃一郎氏は,今の低迷感を抱くSONYと日本の社会を象徴する人物であると思う.

冒頭でも述べたように,何故SONYは,It's a SONY!と驚嘆される会社でなくなったのか.辻野氏の本書での指摘は正しいと思う.SONYは,SONY社員でなくても,知っている,設立趣意書にある企業理念を失ったのである."真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場"ではなくなり,"他社の追随を絶対許さざる境地に独自なる製品化を行う"ことも諦めてしまった.そして,挙句の果てに,社内の政治力が強まり,立派な大企業病を抱え,それを解決することができなくなった.残念ながら,盛田氏や井深氏が残した理念は消えてしまった.

特に,SONYが得意とした,携帯音楽機器やTVの分野は,ネット,まさにビットの世界に移行できるかが,勝負の事業となっていた.その時期に,機能美だけを追求していた,現場は,まさに"諸大学、研究所等の研究成果のうち、最も国民生活に応用価値を有する優秀なるものの迅速なる製品、商品化"を行うことが視野になかった.

辻野氏は,入社しカルテックに留学した後から,これらのことを現場で感じることになる.そして,盛田氏がMade in Japanで指摘したように,スゴ録のような似たコンセプトを,違う事業所で同時に開発を行うようになった.そして,政治的にも苦戦し,新しい技術にシフトできない会社の体質や,iTunesを使わせてくれるように頼めば良いなどという,暴言をはく幹部らの意見と衝突した.今現在,SONYはiTunesと大きな問題を抱え,プラットフォームの指導権を握られている.そして,Google TVに参入したものの,その未来にも,SONYの主導権はない.また,新規に参入したReaderも,日本ではMac OSにも非対応で,ネットではSONYは死んだとまで,言われるようになった.最終的には,市場はAppleがSONYを買収する噂をも信じた.

それでも,多くの人は,SONYの未来を信じている.一方で,辻野氏は愛すべきSONYを退社し,SONYの生き方を,古くなったSONYではない場所で継承しようとしている.

日本と米国の社会システムとイノベーション

僕が,この本を読んだ時,一種の疑問に対する答えを模索していた.就活というシステムに疑問を覚えながら,就活生という役割を終えた僕は,日本の社会雇用のシステムと,米国の社会システムの違いと,利点について自然と知りたくなった.それが,この二冊を手に取ったきっかけだった.Made in Japanの時代は,日本の雇用システムや,会社のシステムを米国はこぞって驚異として,報道した.

そして,辻野氏が本を出版した現代は,日本は再び米国の躍進に怯え,主導権を奪われている.

僕が,Made in Japanを読んだ時に,率直に驚いたのが,現在ネットの世界で,激しく主張されている,雇用のシステムの日米の違いについて,僕が生まれる当時から激しく議論されていたことである.つまり,当時から多くは変わっていないという事実である.

当時,日本が成長を遂げられたのは,新興国としての需要も大きいと思うが,少なからず当時のSONYはイノベーターとしての役割を担い,多くの新規市場を開拓していった.

そんなSONYの現在の没落は,池田信夫氏が簡潔にまとめている.これは,日本のひとつの会社の問題ではなく,日本の社会が直面している問題かもしれない.日本とアメリカの雇用システムの違いの差は,如実に多くの場所で結果的違いを生み出しているようにみえるが,私自身は,一概にどちらが良いとか悪いとか,決めかねる.それよりも,どのようにイノベーションの場を今後に創出することができるかどうかということが最も重要な課題である.これらは,雇用問題と大きく本当に相関性があるのか,はっきりと見えてこないが,雇用の流動性の高いアメリカでは,次から次へと,新しい産業のルールが生まれて,その覇者も次の時代には没落していく.

最終的に,僕が今思うのは,僕達の世代が,どれだけ自分達の未来を案じているかだと思う.単純に社会システムに対して,不満を嘆くのではなく,自分達の将来がどのような問題を抱えているかを考え,行動していく必要がある.そして,もう長老達が引退するのを待っている場合ではないかもしれない.幸運にも東京は焼け野原ではないが,私たちは,当時の盛田昭夫氏達以上の貪欲さを持つ必要があるのではないか.

(注 私はSONY関係者ではありません.)

参考

イノベーションのジレンマ

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