2011年9月25日日曜日

特許の考え方を知るのに

御社の特許戦略がダメな理由
長谷川 曉司
中経出版
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御社の特許戦略がダメな理由

特許と事業のあり方を知る第一歩によい本だと感じました。

よく語られる特許"戦略"とは実際何を意味しているかを教えてくれます。特許戦略に対する基本的な考え方を学ぶことで、特許提出を仕事とする技術者が、どう考えて行動していくべきかの指針を得ることができます。(技術者でなくても、特許に携わる方にはおすすめです。)


失敗事例から学ぶ


革新的技術が生まれ、特許も提出したが、その特許の情報によって他社が自社より短い開発期間で似た技術を達成してしまうという事例が多く存在します。かの有名な、サラリーマン研究員がノーベル賞を取得した技術でさえ、特許化したものの実際に稼いだのはドイツのメーカーであったそうです。

特許の重要な役割として、技術の独占と引き換えに技術情報の開示が存在します。しかし、そのために他社が隙をついて(特許を侵害しないように)、技術を模倣することを容易にしてしまいます。一見想像しやすいこの状況も、特許が重要と叫ばれる近年には、企業が陥りやすい罠だと筆者は主張します。

それは、競合企業の存在が予想でき、権利の広い特許を書かなくては、と日頃から考えていても、戦略として十分に特許を機能できていないからです。これでは、特許によって、むしろ技術を模倣させ他社の研究開発期間を短縮することを容易にしているとしかいえません。


必要な特許戦略とは何か


では、行うべき特許戦略とは何でしょうか?

ここで、少し話を変えましょう。そもそも、特許を提出する目的は何でしょうか?

特許を提出することは目的ではありません。特許は手段のひとつです。では、何の目的があるでしょうか?

筆者は"企業の利益を最大化すること"と述べています。


一般的に特許というと、他社が先行して特許を取得することから”守る”ため。という声があがります。


残念ながら、”守る”特許からは、事業としての利益は生まれません。(パテントだけで稼ぐ企業もなくはないが、多くの企業の考え方とは相容れないでしょう。)

では、相手企業が特許を侵害したときに、権利を主著し、損害賠償を得るためでしょうか?

そういった事例もありますが、これは事業利益を増大させるとはいえず、継続的なイメージを持つ”戦略”とはかけ離れていると筆者は述べます。

筆者は、特許は”攻め”の道具のために使うべきだと主張します。(”攻め”や”守り”とは、言葉のイメージの問題なので、ここで変な誤解をうむ可能性もありそうですが。。。)

筆者の主張する、特許の”攻め”とは、具体的には排他力の効果的な活用といえると思います。”競合する他社の前に協力な特許網を築きあげることによって、その他社が自ら事業を断念するか、事業への参入が大幅に遅れるというような状況を意図的に作り上げることができれば、これこそ優れた特許の活用ということができるのではないかと思う。

つまり、戦わずして勝つことこそ最大の”攻め”なのです。

これにより、他社が参入しないことによる利益の増大と、他社が参入に遅れたことによる、先駆者の利益が期待できます。


言うは易し行うは難し


では、そのような特許戦略はどのように実践していけばいいのでしょうか?

よく述べられる、曖昧な”広い”特許では、不十分だと言えます。競合他社が分かる場合は、これらの会社の技術の流れを包括した”戦略的な範囲で広い”特許を取る必要があるのです。つまり、具体的な他社が技術情報を見た時に、どう模倣するかを含めて特許の戦略を考える必要があります。

しかし、まだ事業化もされてない、競合他社もわからない技術の場合はどうすれば良いのでしょうか?この場合は、発明の本質は何か?ということから議論を行い、わざわざ発明を限定的にする必要はないと述べています。

これらの戦略をきちんと明らかにし、組織的に行なっていくには、三位一体型の特許戦略が重要と筆者は述べます。三位一体とは、”研究・開発”、”知財”、”事業部”の三つです。これらが、何を事業の目的とし、事業展開上何が懸念され、そのためにどういった戦略を取るべきかを専門家たちが決定します。


成功事例から学ぶ


この本の最もいいところは、失敗だけでなく、何故あの戦略は成功したのか。という事例まで含めている所です。実際に複数の競合企業の存在する材料メーカーが、他社の状況から描いた戦略による成功例などが述べられています。


最後に


企業の新技術を”攻め”の特許で、戦わずして勝つ事業展開をすることは、一見消費者に不利益に見えるかもしれません。しかし、安易な模倣ばかりを許すより、違う観点からブレークスルーが期待できるという点からも重要だと筆者は述べています。

開発者・研究者のモチベーションは、技術により事業を成功させ、世界にも貢献できることだと思います。しかし、本書でも述べられている”知的創造サイクル”を実践していくためには、ルールにのっとり、発明は保護されると同時に、その利益と情報により、新たな価値を創造していく必要があると思います。

特許がイノベーションの障害になるという見方もありますが、きちんとした特許戦略を描くことにより、”知的創造サイクル”というのを実践していく必要があるのでしょう。