2011年6月19日日曜日

イノベショーンへの解 クレイトン・クリステンセン / マイケル・レイナー The Innovator's Solution




本書は、クリステンセンのイノベーションのジレンマの続編ともいうべき書である。"イノベーションのジレンマが理論の構築を目指したのに対し、本書の目的は読者に、理論を用いる方法を教えることであった。"とあるように、イノベーションのジレンマで示された破壊的イノベーションについて、担当者が実践していくには、どういう指針が必要かというのを論じている。つまりは、前作イノベーションのジレンマの理論の上に立つ本である。そのため、前作を読んでからこの本を読むことをおすすめする。また、イノベーションのジレンマほどの衝撃さはないものの、自分が新興企業や大企業での新たな成長事業を任されているのであれば、一読の価値はあるとおもう。そうでない人も、働く上で、継続的イノベーションと破壊的イノベーションに求められるものの違いを知るのは悪いことではない。僕自身は、前作に大きな衝撃を覚えたタイプであるため、自然とこの本に手が向いた。

各章ごとに気になった部分と、論点をまとめていきたいと思う。

第1章 成長という市場命令

なぜ、成長が必要かというのを説明する。特に、市場が期待する以上に大きな成長をしないと、企業は評価をうけないし、失敗するとそこから挽回するのが難しい。市場の期待以上に成長を行うには、イノベーションが不可欠である。しかし、イノベーションを成功させる明確な法則はあるのだろうか?本書では、単純な区分や相関性ではなく、状況に応じた因果関係を考える事で、事業成長の信頼性を上げることができると、述べている。

第2章 最強の競合企業を打ち負かす方法

イノベーションのジレンマの簡単なおさらいから。持続的イノベーションと破壊的イノベーションの違いについて述べている。特に、破壊的イノベーションが、より良い製品を与えるのではなく、一般的には、むしろ足りないと思わせる製品を与えている、という部分がおもしろい。もちろん、それには勝る別のメリットが顧客にはある。また、破壊的イノベーションも大きく二つに大別される。ローエンド型破壊と、新市場型の破壊である。

ローエンド型は以前から市場に存在した顧客に対して、攻略するものである。鉄鋼ミニミル、ディスカウント小売業者などが例としてある。"実績ある企業がローエンド型破壊者から逃げ出さずにいることは非常に難しい。"

新市場型破壊とは、"「無消費」、つまり消費のない状況に対抗するものとして捉えている。"つまり、新しいバリューネットワークに似ている。どこか、ブルーオーシャン戦略と似ている気がする。また、この破壊では、"既存のリーダー企業は、破壊が最終段階に至るまでまったく痛みを覚えず、脅威もほとんど感じない。"(ただ、最終的に新しいバリューネットワークに既存のリーダー企業のネットワークが取られることになる。)

これらの話から、これから考える新事業が、破壊的イノベーションとなりうるかという、リトマス試験(質問)が与えられる。

一組目の質問(少なくともひとつはイエス)新市場型
・これまで金や道具、スキルがないという理由で、これをまったく行わずにいたか、料金を支払って高い技能を持つ専門家にやってもらわなければならなかった人が大勢いるか?
・顧客はこの製品やサービスを利用するために、不便な場所にあるセンターに行かなければならないか?

二組目の質問(両方ともイエス)ローエンド型
・市場のローエンドには、価格が低ければ、性能面で劣る(が充分良い)製品でも喜んで購入する顧客がいるか?
・こうしたローエンドの「過保護にされた」顧客を勝ち取るために必要な最低価格でも、魅力的な利益を得られるようなビジネスモデルを構築することができるか?

三組目の質問
・このイノベーションは業界の大手企業すべてにとって破壊的だろうか?もし、一社もしくは複数の大手プレーヤーにとって持続的イノベーションである可能性があれば、その企業の勝算が高く、新規参入者の勝つ見込みはほとんどない。

第三章 顧客が求める製品とは

二章のような、破壊的イノベーションを実現するには、どのような製品を考えなければいけないか。
"マーケティングで狙い通りの成果をあげるには、・・・顧客が片付ようとする「用事」や、その用事を通じて達成しようとする成果が、状況ベースの市場区分を構成するのである。・・顧客が置かれている状況に絞る企業が、狙い通り成功する"。状況すなわち片付けたい用事に的を絞ることが重要だと述べてる。

ソニーの例がここでは述べられている。ソニーは、12回も破壊的イノベーションを達成した唯一の企業である。これは、創業者の一人である盛田昭夫の貢献であると述べえられている。盛田昭夫は、顧客が何の用事を片付けようとしているのかが、よく分かる人間であった。しかし、盛田昭夫が、日本の政治に関与し、経営から身をひいた時期から、持続的イノベーションはあるが、破壊的イノベーションを出す企業ではなくなってしまった。

また、この章では、破壊的製品をその用事を済ませたい顧客に結びつける、チャネルの獲得も重要だと述べている。

第四章 自社製品にとって最高の顧客とは

ローエンド型破壊では比較的、理想的な顧客を見つけるのは簡単である。しかし、新市場の顧客を見つけ出すことは困難である。この章では、新市場型の顧客、用途、チャネルの特徴などを述べている。

本書では、ソニーや血管形成術の事例などから、共通の4つのパターンについて述べている。
1、標的顧客はある用事を片付けようとしているが、金やスキルを持たないため、解決策を手に入られずにいる。
2、このような顧客は、破壊的製品をまったく何も持たない状態と比較する。そのため、本来のバリューネットワークのなかで、高いスキルを持つ人々に高い価格で販売されている製品ほど性能がよくなくても、喜んで購入する。こうした新市場顧客を喜ばせるための性能ハードルは、かなり低い。
3、破壊を実現する技術のなかには、非常に高度なものがある。だが、破壊者はその技術を利用して、誰でも購入し利用できる、シンプルで便利な製品をつくる。製品が新たな成長を生み出すのは「誰でも使える」からこそだ。金やスキルをもたない人々でも消費を始められるのだ。
4,破壊的イノベーションは、まったく新しいバリュー・ネットワークを生み出す。新しい顧客は新しいチャネル経由で製品を購入し、それまでと違った場で利用することが多い。

このような、無消費と呼んでいる新たな新市場に進出するのは、言われてみれば、歴史的によくあったことだし、よく言われることだと思う。しかし、本書では、実績ある企業が全く別のことを行っているという。これは、イノベーションのジレンマで述べられていたことだが、大企業は今の資本レベルに見合った、将来のリターンを自然と期待する。しかし、このようなリターンの存在する市場は、もうすでにできあがっている市場である。そして、このような市場は持続的イノベーションが鍵となるが、この市場での勝者は常に、その市場のトップにいる企業である。では、どのようにして違う資源配分プロセスを持って、破壊的イノベーションを可能にするかとつながる。

また、この章では、破壊的イノベーションには、破壊的チャネルも必要不可欠であると述べている。ここでも、チャネルの重要性があげられている。

第五章 事業範囲を適切に定める
第六章 コモディティ化をいかにして回避するか


五章と六章は内容が非常に近い。新市場型イノベーションが発生した時に、どのように市場の覇者が変わっていくかについて述べている。"新規製品の機能性と信頼性が顧客のニーズを満たすほど充分でない状況で圧倒的に有利な企業は、独自の製品アーキテクチャをもち、バリューチェーンのなかで性能を正やうしているインターフェースをまたいで統合されている企業である。だが、機能性と信頼性が十分以上になり、変わってスピードとレスポンスが「十分でない」次元になったときには、その逆、つまり特化型の専門企業で、相互作用の方式がモジュール型のアーキテクチャと業界標準によって定義されている企業が優位に立つ。(主としてローエンド型のイノベーション企業となる)"

この一例として、IBMをあげている。IBMはパソコンが「充分でない」時代に、パソコンの構成要素を、インテルとマイクロソフトに、外部委託をした会社で、当時は利益のあげにくい分野であったから、この判断は外部からは賞賛された。しかし、後に外部委託した、そのふたつは業界の利益のほとんどを牛耳るようになった。

このような、その時のコア・コンピタンス(IBMの場合はコア)の観点から、外部委託を判断すると、将来の大きな代償になりうることを示唆している。コア・コンピタンスの基準だけで考えるのではなく、顧客が高く何を評価するかを考える必要がある。また、従来の統合型アーキテクチャで、強みのあった会社は、モジュールを販売することを戦略としてかがげて、切り替える必要がある。しかし、多くの会社は、合理的な決定を下すかのように、外部委託を行い、ゲームが終了するころまで、気づかないということもある。

このような話は、よくAppleとマイクロソフトの事例として、とりあげられ、今ではAppleとGoogleの事例として議論されるのではないだろうか?クリステンセンの考えが、正しいなら、Googleが最終的にスマートフォンの勝者になるだろうが、果たして未来はどうなるのだろうか?(2010年のAppleから学ぶべき3つ不等式

また、自動車産業では、完成車メーカーが、利益を最も得ている産業形態が代わり、モジュール化が、消費者にとっても強く浸透するような世界になったら、自動車の部品メーカーに、昔のマイクロソフトのような強い会社が、日本でも出現するかもしれない。

第七章 破壊的成長戦略を持つ組織とは

新成長事業の運営を誰に任せるかという議論。特に、資源、プロセス、価値基準について述べている。

・資源
 人材や技術、ブランドなど。特に人材では、「経験の学校」という考えをもとに、そういって事業成長の指揮を経験したことのある人が、的確だと述べている。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶという言葉もあるが、多くの場合、一度経験している人のがやはり適応性が高いのだろう。また、経験してない人でも、経験の場で、学べる資質を持っていることを判断することが重要。

・プロセス
 文書化されていないものも含んだプロセス。新しいプロセスを組織に作る段階では、重量級チームと呼ばれる、新しい方法を生み出す必要がある。このような場合は、全員が同じ場所で仕事をする必要がある。(そうなのだろうか?)

・価値基準
 従業員が仕事の優先順位を考えるときの価値基準。価値基準は前者2つと違い、何ができないかという制約を表すことのが多い。新しい価値基準を生み出すには、自律的な組織として、新しい事業部門を設置する必要がある。でないと、既存のコスト構造にみあうイノベーションしか優先できなくなる。

これらのプロセスや価値基準が、最終的に会社の文化を作るまでに至る。組織の能力が人材にあれば、変革は容易だが、文化にあれば、変革は難しくなる。

第八章 残略策定プロセスのマネジメント


意図的な戦略から始まった事業も、偶発的に発見した創発的な戦略をうまく受け入れることで、事業を本当に成長させていくことができる。つまりは、試行錯誤をすることが大事ってことだろうか?そう言われれば、至極当たり前だが、事業というものが、そうやって変わっていくものだということを頭に入れておく必要がある。これを、助けるのが発見志向計画法であるようだ。私たちは、思いがけない成功を探し求める必要がある。

第九章 良い金もあれば、悪い金もある

金の負のスパイラル(成長投資のジレンマ)について説明している。特に、利益を早く実現させ、成長を待てるようにする。という考えは、参考になった。(業界によって、その基準は異なる。)
M&Aも、成長勾配をそのままにして、量的に増えるM&Aではなく、成長勾配をより急にする破壊的戦略をもつ買収が重要であると述べている。

第十章 新成長の創出における上級役員の役割


必要になる前に始めるというのは、よく分かる。主力事業が倒れてからでは、本当に遅い。
ここは結構割愛。

終章 バトンタッチ


以下、本文からの引用。


"
1、実績ある競合企業に魅力的に映るような顧客や市場をターゲットとする戦略は、絶対に通してはならない。実績ある競合企業が喜んで無視するか背を向けるような破壊の足がかりを発見するまで、部下に一からやり直しを命じること。非対称的なモチベーションを生み出せれば、競合企業があならの勝利に手を貸してくれる。・・・


2、部下がすでに優れた製品を使っている顧客を標的にしようとしたら、無消費に対抗する方法を探し出すまで、やり直すよう命じること。顧客が何も持たない状態と比べるからこそ、シンプルで安価な製品を喜んで受け入れるとき、マーケティング基礎講座で学んだ、顧客を喜ばせる方法が、費用をかけずにしかも簡単に実行できてしまう。・・・


3、無消費がいない場合は、ローエンド型破壊戦略の可能性を、部下に検討させる。いま対価を支払わされている機能を使いこなしていない、ローエンドの顧客を捉えるために必要な割引価格でも、魅力的な利益を実現できるビジネスモデルを考案させる。・・・


4、・・・顧客がすでに片付けようとしていることを、一層手軽に安価にこなすのに役立つ方法を見つけるよう命じる。・・・


5、部下の製品計画やマーケティング計画が、社内の組織区分に沿って切り取られた市場分野を標的としていれば、あるいは標的市場が容易に入手可能なデータに沿って分類されていたら、やり直しを命じ、顧客が片付けようとしている用事に即した方法で、市場を分類させること・・・


7、破壊的製品やサービスがまだ十分でない状態で、部下が業界標準やそれに付随する外部委託や提携の話に心を奪われているなら、危険信号を出そう。モジュール方式・・・を時期尚早に追求したり、競争基盤が変化しても、独自アーキテクチャを非公開にしたりしてしまうと、成功はおぼつかない。・・・これから金が向う場所で必要となる能力を開発した方がいい。


・・・・"(疲れた。)

最後に。

"われわれの知る限り、破壊的成長エンジンを生み出し、それを持続的に作動させることに成功している企業は、ない。"

参考(Blog内)

努力が我が身を滅ぼす時

2011年6月6日月曜日

人生論 レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ




友人の薦めで、トルストイの人生論を読んだ。

僕が思想書を読むのは、実はニーチェのツァラトゥストラはこう言った 上 (岩波文庫 青 639-2)以来だ。


なので、どうしてもニーチェと比較してしまう。個人的には、ニーチェは個人主義的な人生観を語っている印象をもっていたので、トルストイの"自分以外のすべての幸福を願う"と語る人生論は、それと対極に位置するように読み始めは考えていた。しかし、途中からは両者は両立できる考えなのでは、と感じた。

僕が、哲学や思想を語るレベルでないのは明らかなので、深くは語らないが、トルストイの人生論という本が、想像以上に心に染み、そして心を温めてくれる本であることは確かであった。

本自体は、結論が分かりやすいので、読みやすい。また、以下のブログが個人的にはおもしろく、よくまとまってます。



気になった文章のピックアップ

こうして人は、魂を引き裂くような恐ろしい疑問をかかえたまま、世界じゅうで一人ぼっちなのを意識する。それでも生きてゆかねばならない。
一方の自分、すなわち彼の個我は、生きてゆくことを命ずる。
が、もう一人の自分、すなわち彼の理性は言う。「生きてゆかれない」

人が何故自ら死の道を選ぶのか。個人的に感慨深い。

自分一人が幸せになるために生き、行動している。自分一人が幸せで、楽しくあり、自分には苦しみや死がないようにするために、すべての人やあらゆる存在が生きて活動してくれるように、望んでいるのである。

トルストイのいう動物的個我の欲求に、満足する人間になるのではなく、人間のもつ理性が何を求めるかを考えればいい。

では、どうすればいいか。動物的個我を否定し、真の愛をもって、他人を愛することだ。と語る。

最後に。

現代社会で、具体的にどう生きればいいか、残念ながらピンとこない。ガンディーのように生きることなのだろか?ベジタリアンはより、トルストイの語る人生観に近いだろうか?

何はともあれ、心の片隅には常に置いておきたい。そう思う一冊だった。