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2017年5月18日木曜日

医療業界に破壊的イノベーションを 「医療イノベーションの本質」



 はじめに

自分は、エンジニアとして、医療業界に関連した仕事をしています。

しかし、医療業界は、非常に複雑な業界であるため、なかなか全体像を把握しにくく、俯瞰的に業界の問題や今後の方向性を考えるのが難しいと感じていました。

その中で、イノベーションのジレンマで有名なクリステンセンが、医療業界での破壊的イノベーションについて記した本書に出会ったため、読んでみました。

本書は、医療業界のコストを劇的に下げ、より品質の高いサービスを提供するには、どうすれば良いか?という問いに答える作品になっています。

医療業界にも破壊的イノベーションが必要

医療業界のコストを劇的に下げ、より品質の高いサービスを提供するにはどうすれば良いか?

その実現には、他の業界と同様に破壊的イノベーションが医療の世界でも必要だとクリステンセンは主張します。
それは、他の業界を見てきても明らかなように、コストを下げ品質も向上させることが可能なのは破壊的イノベーションだけだからです。(一つの例外もなく!)

一方で、医療業界には、国などが定める償還制度や規制があり、更には古くからの組織制度が残っている部分があります。

古くからの組織制度やビジネスモデルは、破壊的イノベーションを実施することを困難とさせています。

同様に古くなった償還制度の一部は、破壊的イノベーションを阻害する要因にもなります。

それは、様々な技術革新が業界を大きく変えるチャンスを逃すことにつながっています。

破壊的イノベーションを促すために必要な総合病院の変化とは

本書での大きな一つの主張は、複数のビジネスモデルを抱えてしまっている総合病院をそれぞれのビジネスモデルへ解体することです。

病院は下記の3つのビジネスモデルを実施してしまっている。と、クリステンセンは主張します。
・ソリューションシップ型
・価値付加プロセス型事業
・ネットワーク促進型事業

それぞれのビジネスモデルは以下のような特徴をもっています。

・ソリューションシップ型
問題を診断し、解決策を提示する。出来高払いで支払いを受ける
精密医療ではなく直感的医療に頼るような疾病、治療を扱う

・価値付加プロセス型

確定診断のついた問題を比較的標準化された手順で治療する
アウトカムに基づく支払いを受ける

・ネットワーク促進型

専門家や患者が情報交換し、助け合う
調整役は通常会費による支払いを受ける
慢性的な疾病が扱いやすい

適したビジネスモデルをもった組織に解体することで、非常に高額で不明瞭となってしまった、莫大な間接費の削減を狙います。

現状では、それぞれのビジネスモデルは異なった利益創出の方法を抱えているにも関わらず、組織が一つのため、組織体制やビジネスモデルを最適化することを拒み、問題を解決することができず、かなり歪んだ形で間接費を加えた価格設定になってしまっています。

解体することにより、コストだけでなく患者の用務に応じた合理的な統合を果たすことも可能となり、質も高まると主張します。

更に、病院が解体されると同時に、第2の波が来ると主張します。
それは、いわゆるテレメディシン(テレメディスン)です。

今の医療は解決策のある高コストな病院へ、患者を来院させるのが一般的ですが、音楽が自宅でダウンロードできるようになったように、解決策をより身近な場所へ移行し、医療費の発生場所を変える流れが来るだろうと主張します。

簡易的な自己診断は、すでにウェアラブル端末なども含めて実現されてきていますが、そういった流れがより一層強まる方向に進むということでしょう。
(もちろん電子カルテや通信技術などのインフラが整ったことも重要な要素です。)

イノベーションを阻害する償還制度

償還制度もイノベーションの阻害要因となります。

本書では、慢性腎不全を例にあげています。

動静脈シャントと透析センターが作られ、急性疾患から慢性疾患へと多くの腎不全は移行していきました。

しかし、近年では在宅透析が、透析センターと同様のインパクトと一層のコスト削減効果があるにも関わらず、その普及を遠ざけている現状があるようです。

その理由は透析センターなどを前提に作られた償還制度にある と筆者は主張します。


医薬品業界の未来


破壊的イノベーションを促す重要な要素の一つに牽引技術があります。

医療業界の牽引技術を持つのは、医薬品メーカーや、医療機器メーカーが主となるでしょう。

製薬業界では以下のような変化が発生すると考えられます。

①分散化、精密化された将来の医療では、ブロックバスター薬は滅多にみられなくなるだろう

②自己診断が医療の出発点となり、患者に直接医薬品を売り込む手法が広がりを見せるだろう

③診断薬が採算性の良いものとなり、償還制度も見直される可能性があるだろう

④現在巨大な製薬メーカーは、誤ったアウトソーシングを実施し、他の業界でも起こったように、将来の利益創出として重要な分野を自ら切り離すだろう

その重要な分野とは、臨床試験の管理と精密な診断薬の開発である

何故なら将来の牽引技術は、精密な診断と効果の期待できる治療を結びつける行為が利益の中心となると考えられるからだ


⑤ジェネリック薬品がメーカーが特許医薬品の開発を実施し、上位市場へ参入するだろう 

注目すべきは、精密な診断が一層可能になるにあたって、治療薬の選択肢が分散化されると同時に、効果が期待される治療と診断内容を結びつける行為が利益の中心となることです。

それにより、現在巨大製薬メーカーが現在のビジネスモデルの最適化からアウトソーシングしようとしている臨床試験の管理と精密な診断薬の開発が、今後のイノベーションの中心となると予言している点でしょう。

また、精密な診断は、医学の専門性自体が誤って定義されていたことを認識させるという主張も注目する点ではないでしょうか?

医療機器業界の未来

続いて医療機器業界の破壊的イノベーションです。

まず、診断機器は集約されていたものから、再び分散化すると考えられます。
それは、通信事業が電報局から家庭電話、携帯電話に変わったのと同様です。

例えば、血液検査や検体の分析作業は広範囲に近年集約化されましたが、小形な分析装置により一部は再び顕微鏡の時代のように医者の元に分散化されていくと考えられます。
また、それが個人の手元に移行すれば、テレメディシンをより助長することにも繋がります。

また、画像診断などは、より低コストの場所で、より高度な治療を行う事を可能とし、低コストの医療提供者が高コストの同業者を破壊する助けとなる。と主張します。
つまり、プロの専門性をコモディティ化することを医療機器メーカーは助長し、それは従来の病院組織の解体を助長することにも繋がります。

もちろん、医療機器は診断だけでなく、治療方法を根底から変えていくことも可能です。
これはすでに始まっている血管内治療がいい例だと本書では述べています。

そして何より、医療機器業界は、直感的医療 経験的医療 精密医療という流れに沿って疾患を推し進める組織となることができます。
これは医療がアートの分野からサイエンスになることを助長し、コストを大きく下げる要因につながるでしょう。


クリステンセン曰く医療の牽引的技術は診断能力です。

医療だけでなくどの業界にも、問題を精密に定義することは、解決策を開発する前提となるからです。

医療機器メーカーや製薬メーカーは、診断能力という索引技術を有する組織であり、その影響は、様々な分野にわたることを本書を通じて改めて実感しました。

最後に

本書はこれ以外にも、医療教育や、償還制度など多岐に渡るイノベーションの可能性について述べています。

米国に限定したような部分や、守備範囲の広さから理解に苦しむ部分もありますが、多くの医療業界に関連する人が読んで、ヒントを得ることができる一冊だと思います。


2016年9月24日土曜日

海堂尊さんの本を読んでAi(Autopsy imaging)について知ったこと



海堂尊とは

海堂さんといえば、ミステリー作家としての一面が有名でしょう。
代表作はなんといっても、映画化もされたチーム・バチスタの栄光などのミステリー小説です。

しかし、本職は別にあり医学博士で病理医として働かれていました。本名は江澤英史さんというそうです。

もともとミステリー小説を書いたのも、彼が提唱したAiを普及する活動の中で書き始めたものです。
小説の方はまだ読んだことがありませんが、Aiを織りませだ作品になっているとのこと。

小説を書いた経緯を本書で、海堂さんはこう述べています。
"よく誤解されるが、実はこの小説はAi普及のために書いたのではない。面白くかっこいい物語を書きたかっただけだ。だが、Aiの活動をしなければ材料を消化できず、物語の推進力を得られなかったのも事実だ。つまりAiと不即不離の物語だ。"

才能ある人は羨ましいものです。二兎を追って二兎を得ている気がしますね。

確かに実際に本書を読むと、Aiの活動が物語の推進力を得たというのは納得できるものがあります。
なぜなら、Aiを普及しようとする活動は、Aiの意義を信じる海堂さんと、その周りの立場の違う人々の政治的な駆け引きがあるので、それ自体が一種の小説であり、その中で物語的な世界を想像してしまうのも理解ができます。ただ、それを多忙の中で形にでき、多くの人から支持を得る作品にしあげることは、凡人には困難な作業だと思います。

さて、そんな海堂さんが提案したAiとは一体何なんでしょうか?

Ai (Autopusy imaging)とは
※Ai 人口知能のAIとの誤解を避けるために小文字のiを利用しているとのことです。

一言でいってしまえば、死亡時にCTやMRIで画像診断し、きちんと死因を解明しましょう。といえるのかと思います。また、重要なのは、解剖だけでは社会構造上対応できないし、情報的な質も異なる画像診断も用いることで、有益な情報を多くの人が共有できるようになる。という点です。

Aiの有用性をきちんと理解するためには、死因を理解することの重要性と、そのうえでAiを利用するメリットを理解する必要があると思います。

死因を理解することの重要性
海堂さんの本を読むまでは、死んだ人にお金や時間をかけることの意味をあまり理解していませんでした。「死因不明社会(ブルーバックス)」で、以下のように死因の不明に関する問題提起をしています。

(以下引用 一部書き換え)
①身内の死因が確定されずに済まされる。このため医療過誤発見が困難になったり、保険金請求で問題が生じる・・・本当の死因が不明なら、問題があったかどうかをどう判断するのだろうか。
②診療行為の効果判定が正確にされない。死亡時の医学検索が行われなければ、再発か、治療で完治したが別疾患の併発で死亡したのかはわからない。現状で解剖が行われなかった場合、治療効果判定は行われないことになり効果的な治療法の確立はできない。
③・・・異常死体の多くは、体表から調べる検案(あるいは検死)だけで死因を確定される。体表から見ただけでは死因は確定できないことは素人にもわかる。かくて殺人や虐待は看過され、犯罪が繰り返される。
④死亡統計が不正確になる。統計は医学の基礎だ。治療法が功を奏した例は○○例中✕✕例、したがって奏効率△△パーセント、というようなデータを基礎にし、治療の有効性が決定される。死亡時医学検索が行われなければ土台が崩れるから、当然医学が壊れていく。
(引用終わり)

③に関しては、そもそも警察がきちんと異常死として拾い上げられないというリスクも、多くの事例から述べられています。異常死が拾い上げられない場合は、その犯罪がそもそも見過ごされるということになります。また、体表だけからの情報からの死因特定が誤る可能性が高いことも想像できることです。

また、②と④がないがしろにされるのは素人目線ながら不安を覚えます。医療の成果の一つを判断するのに、治療効果の判定は重要なのではないでしょうか?結果的に何が死因だったのかはよく分からない。というのは、自分達の仕事の成果がよく分からない。ということに繋がらないでしょうか?つまりは、それは本当に効果的な医療ができていると言えるのか。という不安を覚えます。

もちろん①に関しては、親族としてはきちんと死因を知りたいという思いは強いでしょう。また、医療過誤が疑われる場合、病院側も死因がクリアになることで責任の所在がはっきりするので、社会全体としてはプラスになります。

こういった問題を解決するには、まずはしっかりと死因を解明する必要があると述べています。

・現状はどうなのか?

死因を解明する必要性はわかりました。では、現状の死因の診断はどうされているのでしょうか?

日本では監察医制度がありますが、解剖を実施し死因を診断されるのは2%程度。それ以外は、ある意味外見のみから死因が診断されます。更に、臨床診断と病理診断が異なることは10~30%程度起こり得ているという研究結果も出ているとのことです。

こう考えると、ほとんどの死因はよく分からないか、間違っていることがあるのが世の中の常識になっていると想像できます。

また、日本の監察医制度は地域による格差が大きく、東京などの大都市では機能するが、それ以外はほとんど機能していない、もしくは存在しないという現実があります。つまりは、地域によって得られる医療の質が異なってしまうという問題もある訳です。

・では何故Aiが良いのか

死因を推定する方法はAiだけではありませんが、Aiが優れている点はなんでしょうか?
本書からAiの有効性について、抜粋してみました。

解剖の欠点を補いやすい利点が多数あるようです。例えば、
・広範囲の組織検索が行いやすい。
・腹水などの液体の存在状況が観察できる。
・解剖の質は均一性が困難だが、Aiでは実施しやすい。
・傷をつけないので、患者の遺族から理解が得やすい。
・医学情報を迅速に遺族に伝えやすい(解剖は診断結果が出るまでに時間がかかる)
・コストが解剖に比べて安い
・遠隔診断も可能なので、中立的な診断が行われやすい
・画像は保存しデーテベース化しやすい

また、日本の場合は、CT/MRI先進国のためインフラが比較的整いやすいという利点もあります。解剖の方が死因の特定率は75%と高いですが、AiもMRIなどを用いれば60%近くの死因の特定が可能なようです。

何よりも強調したいのが、解剖で死因特定を増やそうとすると、人的にもコスト的にも足りないので現実的に困難であるが、放射線技師や放射線科医の人数を考えるとAiを導入するのはまだ現実的な解であるだろう。という点です。

そう考えると、良いことづくしのAiに聞こえますが、何か問題があるのでしょうか?

・具体的な問題は何か

何事もそうですが、やはりヒト・モノ・カネを誰がコントロールし、設計するのか。ということになるのでしょう。
得にAiの場合は、カネを誰がどれだけ払うのか。誰が診察/撮影をするのか。という点が問題になります。
撮影をするのは放射線技師がいますが新たな業務の発生になります。診察は放射線科医か法医学の人間が行うのか。診療報酬が死者には出ないので、誰がお金を払うべきか?病理医の解剖との連携はどうするのか?といった課題が発生する様です。

医療の場合は公共性の高い仕事になるので、カネの設計をするのは厚生労働省になるでしょう。報酬がどう定義されるかで、医療現場の人々のインセンティブは大きく変わります。民間病院になればその傾向は顕著です。また、制度設計がしっかりしないと、現場では歪が生じてしまうのは素人からみても明らかです。

・国が決める部分が多い
・各学会で考え方が異なる
・医者の世界には白い巨塔的な側面がある
こういった状況を勝手に想像すると、政治的なアレコレが発生するのは想像しやすいところです。実際に著者の海堂さんもこういった渦中に飲み込まれ闘っていくわけです。それは、本書"ゴーゴーAi"を読んで頂ければよく分かることです。

海堂さんの主張するAiは以下のAiプリンシプルを読めば明らかです。
①Aiは医療現場の終点で医療従事者が行う
②Aiを行ったら診断レポートを作成し、その情報を遺族と社会にオープンにする
③Aiの費用は医療費外から医療現場に支払われる
プリンシプルとしてはよく理解できます。

個人的には以下の点が疑問としてあがってきます。
確かに、Aiは解剖より安くすむが、多くの人がスクリーニングのように実施するだけの費用を出すのは現実的には難しいのではないでしょうか?
また、そこまでの費用対効果があるかは現状として解明されているのでしょうか?
まずは優先度が高い人から実施するのが理解しやすいが、1個人としては、少なくとも患者が希望すれば実施できるようにあって欲しいと思います。しかし、そういった体制はどこまで作られているのでしょうか?

・最後に

なにはともあれ、2007年に「死因不明社会(ブルーバックス)」にて、以下のようにAiの制度導入の困難を述べていた海堂さんが、2011年の「死因不明社会2(ブルーバックス)」では、Aiの制度化への予言をもとにあとがきを終えているのは、感慨深いです。
こうやって社会制度が大きく変わり医療現場が変わっていくことに感動を覚えますが、同時に、新しいことを実施することが如何にハードルが高いかも伝わってくる面があります。

「死因不明社会(ブルーバックス)」プロローグより引用
”私は、Aiが制度として確立して欲しい、と祈るような気持ちで本書を上梓した。だが、そう言いながらも、このシステムが日本に根付かなければ、それはそれで仕方がない、という諦めの気持ちも半分混じっていることは、正直に告白しておきたいと思う。”

「死因不明社会2(ブルーバックス)」あとがきより引用
”2007年に前著『死因不明社会』を執筆して4年。社会のAiに対する理解が進んだことは、本書執筆陣を見れば一目瞭然だ。Aiは他分野の人々に広がり、その支持は確実に浸透している。本書が一般市民のAi理解に貢献し、日本社会に早晩、Aiを基本にした新しい死因究明制度が出現することを予言しつつ、擱筆したい。”

これをきっかに、チーム・バチスタの栄光を読んでみようと思います。





2016年7月22日金曜日

ミニーおばさんって誰? Who is Aunt Minnie ?

画像診断のトリビア
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画像診断の専門ではない自分には、取るに足らない事実(トリビア)が、その業界の背景を知る助けになって勉強になりました。

印象的な点をいくつか残します。

・硫酸バリウムは無毒だが、硫化バリウムは毒性がある
・ビスマスが有望だったが、大量に投与すると血液毒性がある事がわかった。
・バリウムは小麦に混ぜて重量をごまかしていたことから、安全では?と考えられた。

・血管造影を安全に実施するためのセルディンガー法を発見したセルディンガー氏はセルディンガー法では、学位がとれなかった。(単純すぎた)

・哺乳類の脊椎はほどんとが7個。これは、Hox遺伝子の影響が大きいとされている。
・フェルソン先生が提唱したシルエットサイン。「Fundamentals of Chest Roentgenology」フェルソン先生は鉄板。
 
・コントラストがないと病変はみえない。

・胆石内ガス像はメルセデス・ベンツサイン
・仙骨不全骨折の骨シンチグラム所見としてホンダサイン

・ミニーおばさんは誰か?
 ここでもフェルソン先生が由来だったんですね。

・シマウマ診断(Zebra diagnosis)
 一般的でない、まれな診断。(他人が診断できないような所見を見つけようと、変わった診断をすることを抑える意味がある)

・IVR→IR
 RI→NM(nuclear medicine)
 日本でしか使われなてない

2012年11月18日日曜日

REVERSE INNOVATION リバース・イノベーション

リバース・イノベーション
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個人的メモ。

課題は、課題をいかに見つけ、定義するかだと思う

”リバースイノベーションは、発明からではなく、忘れることから始まる”

富裕国の成功体験は、多くの場合は富裕国の課題を解決したことから根ざしている。新興国の課題は、富裕国の場合は多くの場合は違う。それも、コストという面だけではない。(コスト対策は、富裕国でいう、グレードの低い技術を使えばよいうという意味でもない。)

このギャップをまず認識すること。

なので、グローカリゼーション(富裕国の成功体験の製品を、新興国向けにカスタマイズしたレベルの製品で、新興国に販売展開を行うこと)ではいけない。本書でいうリバースイノベーションが必要となる。
そのための第一歩が、新興国に向かうにはイノーベーションが必要だ。という認識をまずは持つことが最低条件となる。

インパクトのあるケーススタディ

GEヘルスケアの小型超音波診断装置「ヴィースキャン」が、リバースイノベーションのケーススタディのひとつとして出てくる。これは、グローカリゼーションではなく、新興国の課題に直に目をむける組織作を持てたからこその、成功体験である。

米ディアと印マヒンドラ・アンド・マヒンドラのトラクターのケーススタディも興味深い。

課題はどう見つければいいのか?
課題を見つけたらどう動けばいいのだろうか?

いくつかのケースにヒントは提示されているが、まだ少し考えてみたいところである。

2012年8月6日月曜日

確かに。放射線科医はおもしろそうだ。


だから放射線科医はおもしろい! 電子書籍アプリ版 App
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健康で周りに病気の方もいなければ、”放射線科医って何?”という方もいそうだが、そういう人でも読める本です。

この本は以下のことを知るのに良い本です。

・放射線科医について
 放射線科医がドクターズドクターと呼ばれる理由。放射線科医を見直すのに非常に重要な本だと思います。また、日本の放射線科医の実情も分かります。

・米国の放射線科医の実態
 米国の遠隔画像診断の実態。また、年収1億円といわれる、米国の放射線科医事例を知るには、分かりやすい本だと思います。更に、遠隔画像診断の安全に関する取り組み” Patient Safety”に関する活動などは、多くの人が知りたいところだと思います。

・日本の遠隔画像診断の実情
 日本の遠隔画像診断でのリーディングカンパニーといわれている株式会社ドクターネットの創業をされた著者による日本の遠隔画像診断の実態を知ることができます。日本では、”放射線科医=勤務医”という常識だった時代に、変化をもたらしたようです。

・画像診断の国際化へ
 米国、日本という実情を読めば納得するように、今後は画像診断に対して、ひとつの大きな国際化の枠組みができていくであろうことが分かります。その辺りに関しても、簡単に言及されています。

 日本の医療崩壊に対する言及もされていますが、これに関しては本ブログで紹介した、改革のための医療経済学 Health Economics for Reform 兪 炳匡に詳しいです。

 
本書を読んでいると実感しますが、医療画像がデジタル化し、クラウド化が進むにつれ、遠隔画像診断により医療の世界が大きく変わっていることが分かります。

著者が提案する、”顧問医”の仕組みでは、早期診断できる状態を作りあげるのがひとつのキーだと思います。クラウド化や医療画像の標準化が進みつつある今では、今後より障害が少なく、なおかつ低コストで画像をとれるデバイスやモダリティの進化も重要となるのではないでしょうか?

体内の見えなかったものが、以前より低侵襲で簡単に見えるというのは、一人の健康だけでなく、社会システムも含めて大きな変化をもたらすことなのだと、改めて実感させられました。

2011年8月7日日曜日

改革のための医療経済学 Health Economics for Reform 兪 炳匡

「改革」のための医療経済学
兪 炳匡
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医療政策を論じるならば、この本は必読。そして、多くの医療従事者も必読。様々な医療政策に存在する"誤解"を知るには良書。少なくとも僕は目からウロコの連続で、いかに医療に対する通説が間違っているか、政策決定の考え方が間違っているかを理解させてくれました。

まず、以下の文章を読むだけでも、個人的には衝撃的。"医療費高騰の犯人探しについて、今まで言われてきた5 つの要因(人口の高齢化、医療保険制度の普及、国民所得の上昇、医師供給数増加、医療分野と他産業分野の生産性上昇格差)は、あまり寄与していないことは欧米の実証研究が示唆している。これらの要因の寄与率を全て足し合わせても米国の総医療費上昇率の25~50%しか説明できない。残りの説明できない75~50%を占める、医療費高騰の黒幕ないし真犯人は、医療経済研究者の間では「医療技術の進歩」と予想されている。"また、予防医療が本当に医療のコストを下げない理由や、米国の医療の満足度が高いという識者の包括的分析の欠如。日本の政策決定のためのデータの決定的不足。多くが衝撃的です。また、日本の医療が偶発的に安くあがっているという事実も驚きできした。

ただ、強いて難癖をつけるならば、今叫ばれている医療改革制度が間違っていることは述べられているが、具体的に日本が直面している医療政策の問題と、解決策の提言を豊富に述べて欲しいところ。

しかし、それらを本当に議論するには、日本の政策決定を行うためのデータが著しく欠如している。つまりは、そこが問題なのだが、それだけでは読み物としては、寂しいものがある。

最後に、政策決定を決めるにはどういった理念を持つべきがという問題にいきつく。私たちがどういう世界を望むか。それは、私たち一人ひとりの読者の問題でもある。

以下は個人的メモ

2章 比較による医療の相対的位置づけ


ここでは、各国の指標を比較することの医療経済学における重要性を述べています。それと同時に、比較はあくまでも相対的なものであること、また、指標のつまみ喰いによる、特定の主張者の存在に注意を喚起しています。そして、日本は医療経済に対しのアカデミックな部分はやっと成長しはじめたばかりなようです。何はともあれ、相対的な位置を把握し、政策決定などの助けとしようとのことでしょう。

続いて、社会保証の支出の変動を実際の資料を使って議論します。よく、社会保障に使われる伸び率が大きいと言われているようですが、公共事業関係費よりも少ないとされています。そして、他国との比較では、先進国の中では医療に対する社会保障費が少ないようです。

ここで驚いたのが米国の医療支出です。"米国の社会保障に含まれる医療とは、公的医療プログラムである、全人口の14%をカバーする高齢者対象のメディケア(Medicare)と、約13%をカバーする低所得者対象のメディケイド(Medicaid)を補助・運営するだけでGDPの約6%を投じています。同じGDPの約6%を投じて、補助・運営される日本の公的医療保険が人口の100%をカバーしていることを考慮すれば、日本の医療は国際的水準からみても「安くあがっている」といえるでしょう。"とのこと。

また、個人の医療支出を含めて全医療費の支出でも、日本は英国と同じレベルで新興国の中で低い水準となっています。一方で米国の医療費は群を抜いて高いと言われています。そして、日本は「アクセス」(病院への受けやすさ)もかなりいいとのこと。待ち時間が長いといわれている日本の病院でも、海外から比べるとだいぶ良く、米国では15分の診断を受けるのに一週間の予約が必要であったり、保険会社が受ける医療機関を制限したりしているとのこと。また、有保険者とそうでない人の差別もやはりあるようです。

一般的に医療費が高い国が、医療の質が良いとされているが、その例外が日本と米国。日本は低いのに質が高く、米国は高いのに質が低い。日本の特徴としては、診療に従事する医師の数が少なかったり、CTやMRIの装備が数倍以上の規模であったり、現在は変わってきているが、「薬漬け診療」があったりしたよう。むしろ、今では「過少投薬」を心配する声も。また、医師の必要数の地域による偏りは大きいようです。

各国の医療満足度はデータのつまみ喰いの仕方や、患者の住む場所、患者が中流以上かそうでないかなどによる見方によって、大きく変わるようですが、全般としては日本は高い位置にいるようです。

3章 医療経済学に何ができるのか

医療経済学がどういうものなのか、どういう目的のある学問なのかということを、説明しています。経済学と経営学の違い、社会全体の効率と福祉を最大化し、資源をどのように配分するかなど、経済学の無縁の僕にも分かりやすく書かれています。特に、予防接種の一例は非常に勉強になり、「市場の失敗」についても学びました。このような、全体視点から物事を考える事も非常に今後大事だと痛感しました。

また、規範的な、しかも広い範囲を扱った、経済学の命題(「民営化によって医療全体の効率が向上するか否か」)についての、断片的な話があげられるときは、まず疑った方が良いと主張しています。このような命題に対して、単純明快な解は今後も存在せず、前提条件であるX,Y,Zがほぼ満たされた時に限り、解決策はAとなる。としか答えられず、おのずと答えも複数となる。

最後に、医療経済学を専門的に学ぶにはどうすれば良いかについて答えています。

4章 医療費高騰の犯人探し

本書のひとつの醍醐味はこの章にあると思います。従来、医療費高騰に寄与していると思われている、いくつかのファクターについて、小物(実際はそこまで寄与していなかった)であることを説明します。このような、間違った犯人を示すことは、政策決定上、意味のないものにヒトとお金を使う必要がなくなり、大変重要です。

高齢化社会が医療費高騰に寄与しているかの問いに、相関性なし、もしくは、あっても非常に軽微という研究結果が多いようです。これはかなり意外です。急性期の医療費はみなほとんど同じで、寿命に関係なく、介護医療費を上昇させると述べています。しかし、高齢者の総医療費の3分の2は急性医療費がしめています。しかし、もちろん、年金などによる財政の圧迫の可能性と、慢性疾患などについては厳密に判断できないと留保する部分もあります。

続いて、医療保険における医療費高騰についてです。ここでは、医療保険制度が必要か。という、根本的な疑問から議論しています。この手の議論には「RAND医療保険研究」がこの分野で、「知らなければモグリ」といわれるほど有名なようです。まず、保険制度がパレード最適配分という言葉で、社会全体の経済厚生を高めることができるとまず説明しています。しかし、モラルハザードが起こる可能性が医療には十分にあるため、最適な措置ではないが、次善の策であるという認識があることを説明しています。RAND医療保険研究をまとめた「Free for All」の内容は個人的に驚きました。患者負担レベルを分けたグループの、医療の受診率、健康状態、医療費などの違いについて調査したこの研究は、最終的にどのグループも、医療費全体の増大を起こさなかったと述べています。しかし、5%以上の患者負担がある方が、低所得者の健康状態は悪化します。しかし、健康な人にとっては、医療保険制度は資源の浪費、上述のモラルハザードを誘発し、患者負担が低いほどその度合いが顕著になるため、「Free for ALl」では、全ての人が窓口負担がゼロで受信できことに対して疑問を呈しています。本書では、モラルハザードの問題も含めて、功が罪を上回る可能性が十分あるため、「次善の策として必要」との合意に、多くの医療経済学者は至っていると述べています。

長期介護医療費は、総医療費からみればわずかですが、人口の高齢化が施設介護費を大きくあげているのは事実。また、家族介護を考えれば、精神的負担は大きく、財政上の問題も大きいのではないかと想像します。この部分の問題は、未だ良い解決策があるとは思えません。

5章 改革へのロードマップ

医療保険を民営化して大失敗をした米国や、チリ、フィリピンを例に議論が行われています。民営化=効率化という図式が簡単には当てはまらないこと。また、「最低限の医療は基本的人権」という理念を選択する以上、政府のある程度の介入は不可欠で、市場に任せた医療に困難が多くみられていることが述べられています。結果的に多くの諸国が民営化されていない保険のが効率が良いと述べられているのは、注目に値すると思います。また、各医療機関(病院)などが、市場原理主義的に競争にさらされても、医療費の効率が上がるとは限らないようです。(サービスは、費用を上乗せすることであがるかもしれません。患者の待遇など)また、地域に医療施設が少ない場所では、競争的医療市場が存在しない場所が多く存在するため、競争が意味をなさないとも言われています。また、民営化によって構造的二層化が生じると、効率が悪化するばかりでばく、後戻りがしずらいといったことも懸念されています。

日本の問題として、費用対効果・便益分析(CEA・CBA)が非常に遅れていることが指摘されています。インプットに対して、どれだけの健康などが促進されたかというアウトプットが、より一層あがるには、これらの考え方が重要かもしれません。

日本の医療機関はNPOで、株式会社の参入は許されていません。これは、医者が経営方針に依存する場合が多いため、効率化に対してよく疑問視される部分であるようです。しかし、株式会社が一部医療機関を運営している米国などは、残念ながら効率的とは反対方向の医療へと進んでいるようです。著者はここで、効率化を促進できるNPOの体制構築を提言しています。また、NPOのより一層の地域住民との関わり合いを促進するため、税控除などの法整備を行うべきだと主張しています。



統括として、日本は偶発的に他国と比べて質の高い医療を安く提供できた事実があります。しかし、昨今の医療政策を変えようという働きは、短絡的な見方が多く悪い方向に政策が転換される可能性は拭えません。医療経済学という観点から見るならば、投入した金額に対して、どれだけの健康を促進できたか。限られた資源を最も効率良く分配できたか。という視点からきちんと物事を考える必要があります。また、より一層の効率化のため、株式会社ではなく、NPOという形式の中で医療を改善していける法整備と、中立的な視点から議論を行うためのデータの収集が必要です。日本の医療政策決定が貧弱な印象を覚えるのは、データからモノを考えるという、極めて基礎的な仕組みができていないからなのでしょう。

2011年7月13日水曜日

よくわかる医療機器業界・最新勢力地図





俗に言う業界本かと思ったが、中味はそれとは違い、それ相応の内容があったのと、情報も最近のモノなので、いくつか勉強になりました。

ニッチ市場としての集積としての巨大市場

医療機器業界はその市場規模は3兆円を超えるという市場規模を持っていますが、それぞれの各分野で高いシェアを持っていても、売上としては少なく、他の業界と異なり、高いシェアをあるニッチな市場で得たとしても、平面展開がしずらいといった店があります。これは、同じ医療といっても、医薬品とは大きく異なる所です。しかし、そのニッチ市場性が、新規参入しやすい市場でもある。これは兼業メーカーが多いことからも伺え、審査は厳しいが、アイデアと技術、生産能力があれば、広く参入がしやすい。もちろん、きちんと現場のニーズを理解できる必要はあるだろう。

デバイスラグ

ドラッグラグだけでなく、デバイスラグという言葉がある。そのせいで、海外で使われている機器が日本で使えないという事態が発生する。平均で19ヶ月といわれている。ドラッグラグにおいては29ヶ月。本書では、ドラッグラグにおいては、副作用の存在と、日本人と欧米人の人種による差から、ある程度は仕方ないと述べている。しかし、デバイスラグにおいては、一部の医療機器を除き、ほとんど副作用がないので、理論的にゼロでよいとのべている。このデバイスラグの原因は厚生労働省の怠慢という。これはたったの48人というスタッフの少なさが物語っている。また、PMDAでもスタッフが結局足りないと、主張されている。(PMDAについては、こちら

審査が厳しすぎるのも大きな問題のようだ。それらのせいで、海外では一般的に普及している医療機器も、日本では普及しないという事態が発生している。今後の計画でこれらが、きちんと改善されるかが、重要な問題である。今の状態では、海外で認可されてからそれをわざわざ日本で申請するという現象がおきている。本書では、テルモの補助人工心臓などを例に、この問題について解説している。

国の対応として、スーパー特区の話がよく出てくる。一箇所にお金を一気に集中させるのは、日本らしいやり方。よく、京大のiPS細胞が例に出てくるが、iPS細胞の将来の価値はそれほど大きいのだろうか、個人的には詳しくないので知りたいところ。また、筆者はこの、日本の弱かった横断的なスーパー特区のプロジェクトに大きく期待をしているよう。日本らしき解となるのか、将来が気になるところ。



本書の後半は各日本企業の会社の紹介となっている。富士フイルムの、現在の成長の早さにはやはり目の見張るものがあるようだ。日本では存在しなかった、総合医療メーカーが誕生するかもしれない。現状でも、医療のネットワークシステムで高い評価をシェアを持っているのは知らなかった。しかし、外資系に強く負けたこの状況はいつまで続くのだろうか。。。日本も積極的に医療市場を取り込んでいき、今後も今も大きな問題となっている医療業界を大きく変えていかないといけない。また、日本だけでなく、やはり今後は海外市場が大きなマーケットとなるようだ。最後に、よく言われることでもあるが、M&Aも単純なスケールメリットが活かせないというのは、勉強になった。

医療産業の変革 劇的なタイミング





現在の医療産業を勉強しようと思い手にとった本。
様々なキーワードを広く学ぶことができ、その分野のトップで働いている人の講座が読むことができる。現在の医療業界が抱えている問題を広く知るには非常に良い本。

以下は各講座毎の個人的メモ

第1講座 未来の医学のヒントは「臨床」にある。

日本での、臨床研究がいかに不足しているかが分かる。「Nature」などの基礎研究での雑誌には、日本は3.3%と世界4位なのに対し、臨床医学で質の高い雑誌には、0.6%と低い。基礎研究は、まだ頑張れているのも意外な話だが。また、これには日本の大学病院が不健全な経営体質の強化を行ったため、重要な臨床研究に予算が割かれなかったと述べられている。アメリカでのベッド数あたりの職員の数が日本より多いのも意外だ。日本には医療の人材に余裕がない。

「ドラッグ・ラグ」(医薬品が世界ではじめて上市された時点と、それぞれの国で上市された時点の差)はやはり、日本は米国や英国と比べると2.5年多い。この原因に、(独)
医薬品医療機器総合機構の審査遅滞が指摘されるが、それだけでなく、治験前の開発・設計が企業側で非常に遅れていることもあると、述べられている。今後審査体制は増員するようだ。また、制度の変更や、財政的問題もある。今後は、薬事法や治験に詳しい専門家をどんどん病院におく必要がある。ここでも、制度の話もあるが、人材の問題が大きなポイントになっている。

また、臨床研究の負担が少なく、データの信頼性をあげる仕組みが必要。IT化やクラウドがキーワードとなる。また、今後臨床のレベルをあげ、世界に通じる産業に育てていくためには、国民も含めた大きな覚悟が必要。人材レベルを量的にも質的にもあげ、臨床の機会を増やし、ドラッグ・ラグの短縮を行い、世界規模の産業に育てる意気込みが大事。

第2講座 進化するグローバル R&D戦略と日本の役割

この講座では、武田薬品と第一三共の役員が講演を行っている。

上市一品目あたりでの、平均研究開発費の推計が著しく近年高くなっている(2006年で1246億円)ことと、開発期間も上がっていることを述べている。また、そのため生産効率は低下し、承認された新薬数が低下し、ピークを下回っていることを述べている。どういった技術が将来的に熟すかというのが分かりづらくなっているということだ。

武田薬品で面白いと思ったアプローチのひとつに、マルチINDエンジンモデルがある。一社ですべてのイノベーションを賄うことは難しく、多くの企業が各々のイノベーションを持ち寄ることで新薬が生まれるという、「Lesson from 60 years of pharmaceutical innovation」の分析から由来している考え方である。各地の研究の中心地に研究所を設立し、研究者がハブとなってネットワークを組み、R&Dをグローバル化し、臨床なども含め得意な地域で研究やINDを行っていくという考え方で、長期視点のある日本的な強い経営と、各国の得意とする分野をあわせて研究していこうとする方法。これが、成功すれば、武田はおもしろい会社になるのではないかと思う。もちろん、多くの会社のようにそれを管理するのは非常に難しいと思うが。

こういった試みは、第一三共にもみられる。製薬は他の産業よりもいち早く、グローバルなイノベーション競争の舞台に立ったというのは、よく理解できる。第一三共では、その中でもハイブリットビジネスモデルを提唱し、ジェネリック医薬品など、今までの産業構造を厳しくしていく制度を逆手に利用し、新興国などに従来の製薬を販売し多様化するニーズを満足させると同時に、世界的にもイノベーションのある新薬を開発していくという、ふたつの軸から成る経営方針を掲げている。ブロックバスターモデルというのが、今までの製薬の業界の高い収益を支えていたのは勉強になった。

また、製薬会社の規模は昔ほど追い求められていない。イノベーションの創薬を行うのは、規模の問題では必ずしもない。しかし、今後の研究費が膨れ上がる一方なら、ある程度の規模は必ず必要となるのではないか。そして、今後の研究費の削減には、バイオマーカーの技術に期待を寄せている。また、企業形態も統合型の企業から、分散型のネットワーク企業へと以降していくだろうと述べています。パソコンの業界事例を思い出させます。

第3講座 オープンイノベーションが動かす世界の医薬品産業

要約が本書にあるので、割愛。今後、オープンイノベーションや、産学連携などとどう向き合うべきかについて書かれている。産学連携のより密な連携は、どの業界でも言われていることであるが、リスク分散の観点から製薬の場合は非常に重要となると言われている。

第4講座 医薬品産業を一変させるジェネリック医薬品


英国、米国、ドイツなどがジェネリック医薬品で60%の浸透率をもつなか、日本は二番目に大きい医薬品市場の中、14%とかなり低い浸透率。また、日本のジェネリック医薬品メーカーも世界の中では、下位に位置する。その中で、ジェネリック医薬品のメーカーが、競争に打ち勝っていくためには、コストの改革と、付加価値による差別化が重要だと述べる。

また、テバの社長は、高い品質をいかに低価格でコスト競争力をもって提供できるかが重要と述べている。これは、スケールメリットが大きいという。このテバという会社おもしろい。買収の成功率100%を自負し、企業買収で大きくなり、しかも確実に協力者を増やしている印象だ。世界の主要市場でジェネリックで大きな成果を出している。しかし、日本のような新興国でありながら、ジェネリック医薬品が低シェアである、低ジェネリック医薬品業界を胎児的ジェネリック市場と呼ばれる市場もある。このような市場は大きな潜在的価値をもっているが、認可の問題で、テバはスケールメリットが活かせないという。日本と米国の認可が別々なのは個人的には致し方ないと思ってしまうが。。。しかし、このような市場の特殊性は各国様々にあるという。このような、問題をどう対応するかでも、各社のメーカーの考え方は異なる。また、バイオシミラー「バイオ後続品」が、薬剤費削減として期待されていることを知った。これだけ、医療の場では、医療費の削減が大きなキーワードとして、低価格でのコスト競争力が重要な部分であることが分かった。

確かに、ジェネリックがコスト競争力の問題が多く出されるので、劣悪という印象が持たされるのもわかるが、そこは生産においてイノベーションを起こす企業が強いということである。品質に関しては、しっかりと審査する必要があるのは言うまでもないが、後発だからこその品質の安定性もあると主張する。ただ、新薬メーカーの防護策が、誰のための医療なのかと思ってしまう。

今後の日本のジェネリックの浸透を行うには、日本の環境の特異性を理解し、薬剤師や医師にジェネリックへのインセンティブを与えると同時に、それらのサポート体制や情報公開などの仕組みをしっかりと構築していくことが重要であるようだ。

第5講座 日本発の医療技術イノベーション


まず、日本の医療機器・医薬品などの産業分野では輸入が輸出を大幅に上回っており、1,200%近い輸入超過になっている。東大は日本の産業を活発にするために、「ナノバイオ・インテグレーション拠点」を創設。研究を現場に活かすことを目標に富士フイルム、ニコン、日立製作所などと一緒に研究を行っている。そのなかでも、いつでも、どこでも、誰にでも、経済合理性を無視せずに、現場に届けようよしている。やはり、昨今は経済合理性を無視することは、医療にはできない。また、どこでも誰にでも、その研究結果を活かせるという目標設定は素晴らしいと思う。

潜在的市場の大きい医療産業としてバイオチップ(数千億円規模)や、ドラッグデリバリーシステム(DDS)(10年後に5兆円)、治療と診断を一体化した医療機器(一兆円)などを挙げており、患者への治療だけでなく、産業としての活性化も目指している。また、大学としての人材育成も目指している。

この章では、富士フイルムとテルモの幹部による講座がある。富士フイルムは、このまま目標通りライフサイエンスやメディカルの分野で成長を遂げることができれば、非常に医療分野で存在感の大きな会社になっていくと考えられる。個人的には、フイルムが衰退していく中で、これほど生まれ変われたというのは、正直すごいと思いました。

個人的には、売上は長らく医療をやってきた割に少ないながらも、テルモの講座について色々と感心させられた。まず、医療機器の発展が今後、医療経済性を改善することを述べた後、日本と他国の医療機器開発における現状の違いについて述べています。特に米国では、バイオメディカルエンジニアリングを習う場所がしっかりと存在することと、この医療の分野でもベンチャーなどの存在が大きいようです。特に、優秀な臨床医(Gruentzig, Fogarty, Yockなどが紹介)が、自分のアイデアを元に、人を集めベンチャーを作り、大企業に買収されていくということが大きな成果を生んでいる様子。また、テルモに目を向ければ、製品への着眼点がユニークな所や、自らトレーニング施設と呼ばれる、実験室や手術室を持っており、個人的には感心しました。

第6講座 先端ニーズが切り開く高度診断・支援ツール

個人的キーワード
オーダーメイド医療
パーソナライズドメディスン

生体検査について。臨床検査には二種類ある。検体検査と生体検査で、前者は試薬が付加価値を提供し、後者はCTやMRIなどの、機器が付加価値を提供する。これらの検査分野は、診療報酬体系により、当該産業団体は、大きな影響を受ける。そのため、医療費全体が伸びない今、業界全体としても、大きく成長していない。

GEのメディカルについて。インビトロ(人為的にコントロールされた試験管などの環境)からインビボ(体内)へと、診断の世界を変えていく。(X線→CT→PET)そのため、DNAを新バイオ医薬、診断機器へと結びつけることが重要。研究拠点も世界中にある。社会に対する目標設定が数字で、しっかり語られている印象があるので、これだけの多くの人を巻き込みながら成長していけるのだろう。特に、画像診断機器の充実や、病院内のITを地域にも広げようとするヘルスケアITの目標が今後気になるところ。(GEは、解決すべき世界の問題として、医療と環境の2つをあげている。)

第7講座 医療の物流・情報流に挑む異業種の新戦略

マイクロソフトの医療のIT化やクラウド化などの試みについて説明されている。過去、デジタル化していく世界で、アプリケーションやソフトで、邁進したマイクロソフトが新たな時代に、デジタル化の遅れた印象のある医療業界で、AmalgaやHealth Vaultなどのサービスを行っている。ただ、やはりここでもマイクロソフトはソフトウェアベースの古い戦法をとっているのではないかと気がしてなりません。今後医療業界では、世の中で起こったデジタル化の流れを再び再現しようとしているのかもしれません。つまりは、より社会的インフラが整った頃には、医療情報もよりクラウド化し、更にその先の医療のIT化が待っているかもしれません。

第8講座 高密度化する「医療専門職」の役割

平成8年と今(平成22年?)を比べると、救急の搬送出場件数は38%の増加の中、救急隊員数は8%の微増となっている。この増加の原因は、高齢者の増加だと考えられている。また、二次救急医療機関(入院治療を必要とする重症患者に対応する機関)が10年間で4000から3000に減少し、通報を受けてから病院に受け入れていただくまでも、8.3分の遅延となって、35分となっている。救急搬送に関して、ルール作りを行うとしているが、素人目では、こここそIT化してしまえば良いのにと思ってしまう。

看護職に関して。医師不足以上に深刻とされている、看護師不足。新卒就業者が必要数に足りないばかりか、中途退職も多い世界なので、免許はあるけど、働いていないという人が多い。こういった潜在看護職は55~65万人いると推定されている。再就職も、日進月歩の医療の世界では、そう単純ではないようです。そのため、現場の看護職の働きやすさの環境の充実が求められています。

また、看護は最近になり、専門学校から大学化へという流れが多くありました。これは、学生の大学・短大志向を指しているとされています。また、大学化して、教育のレベルを上げることは、現場の病院に入って中途退職者を減らすことになるとも考えているようです。

個人的には、本書でも指摘しているように、看護職の働く環境が向上されない限り、この今の中途退職の多さはなくらなないと思います。多くが女性で構成される職場で、半分以上が子育てをしながらの勤務になっています。そして、交代勤務や時間外での患者の病気に対する知識を得る時間の必要性などを考えると、仕事を続けるには、肉体的にも精神的にもタフさが必要ですし、家族の理解も普通以上に必要となるでしょう。

特に、以下の記述は驚いたので、掲載しておきます。これは、男性が行うような工場勤務より時間的にはきついものだと思います。"夜勤が月9回以上の看護職が50.7%、10回以上の看護職が26.2%、変則を含む3交代の平均夜勤回数は8.5回でした。超過勤務の実態に至っては、全国の病院勤務の看護職の約2万人が過労死危険レベルにありました(通常、過労死の認定は月80時間程度で、看護の場合は50~60時間以上とされています)。3交代で働く看護職に、さらに超過勤務をさせる国は先進国では他にないでしょう。看護職は24時間勤務の職種にも関わらず、さらに超過勤務があり、過労死の認定に当たる人が2万人もいるのです。・・・100床あたりの看護師の数が米国300人強、カナダ250人、イタリア180人、日本66.8人。"という現状を知っていたら、多くの人は辞めたがるでしょう。また、これは看護職だけの問題でなく、患者側にも大きなリスクとなります。看護師の数が減るほど、患者の死亡率は上がるとされているからです。

管理栄養士について。現在の医療費は34兆円。2025年には、45兆円になるという試算もある。これは、国力の低下を招く。これに対して医療費削減の目的とし、一次予防を提案している。平均寿命が高い日本はQOLが高いということはなく、むしろ間違いと述べている。寝たきりや欝病患者の多い日本では、むしろQOLは低い。これらは、習慣的な一次予防から改善できるとのこと。QOLが高い高齢者が増えれば、高齢者医療費は増えない。

薬局薬剤師について。本書で指摘しているように、薬剤師が処方箋しか見れないのは、おかしい事だと思われる。よく、薬剤師に"今日は〇〇の病気ですか?"と聞かれるが、あれは薬剤師が病名も知らない相手に、言われた通りに薬を配布しろという今の仕組みからきている。患者さんの情報にアクセスして、長期戦となる生活習慣病などに対応していくには、こういったチーム医療がより円滑に行える仕組みづくりが重要となっていくのではないだろうか?医療には、こういう早く変えれば良いのにと思われる部分が多々あるのだが、それは何故進まないのだろうか?

最後の永井良三氏の講座は非常に興味深い。日本がベット数あたりの患者が多いのは、ベット数が多いから。他国では、ベット数を少なくする変わりに、それを包括する社会システムが存在する。また、医師不足と言われていても、医師は他国より人口比でみると多い。しかし、手術件数になると、それが逆転する。実は、医師が手術を行う期間は限られ、ピラミッド型の組織が人材の有効活用を阻害していると言います。また、救急や看護師などに対して、ただ数を増やすだけでも、問題は解決しないとのべています。社会のシステムとして、これらの問題をどう解決するのかが重要であると。

具体的な例としてコロンビア大学と東大の大学病院を比較しています。同規模の病院であるにも関わらず、手術症例数は、コロンビア大学が1500で、東大が350です。この原因は、医師補助士がコロンビア大学には30人いるからだと言います。このように、ただ増やすのではなく、役割をうまく分けてシステムをよくすることが重要だと述べています。

いかに患者を増やさないために予防を行っていくか、それも地域レベルで。また、ただ量を増やすだけでなく、専門的に役割分担を行い、社会システムを構築していくかを議論していく必要があるようだ。

第9講座 医療・社会システムへの決断


冨山和彦氏の今の社会システムの講座も、非常に面白く、医療というより、何故国力が衰えているか、今後どうしていくべきかを論じています。リーマンショック以降、世界がState-Capitalismに軸足を変えていると述べている。一方、日本はSocialism-Stateとなっているとのこと。これは、既得権益を支持し、イノベーションの逆の道をいくとの主張。

米国では、現在ホワイトハウスが強いリーダーシップの元、研究開発だけでなく、公共政策を、きちんと政策ベースで考えている。

都市部のが高齢者の増加が著しいとのこと。今後、ますます都市部は住みづらくなるようだ。

この講座のパネルディスカッションも興味深い。研究が企業から大学へ以降したのは、米国の場合は強すぎる市場のプレッシャーが大きかったと述べている。また海外の大学の多くはキャピタリストがつくってきたため、日本も同じような形で企業から大学へと以降することが困難であった。なので、日本独自の解を今後は求めていく必要があると。また、すりあわせの技術が得意な日本の会社が海外に広く展開し、海外に雇用を多くつくるのではなく、そのすりあわせの技術を海外の会社が日本にお金を落としてくれるような、仕組みづくりが重要であるとも述べています。

本書の最後の"リアリストであれ"というのは、非常に良いメッセージだと思いました。フランスのミッテラン大統領を例にあげ、資産家から貧困層への再分配重視の政策ばかりを考えていましたが、現実を直視し、結果として成長を阻害し、再分配するものもなくなるとし、経済を立て直した経緯を紹介しています。

また、冨山和彦氏の"暴力的に年寄りを殺していく"というのも、時代の変わり目の今、若者は考える必要があるのかもしれません。個人的には、何が既得権益ばかりを保護し、何が結果的に成長を阻害しているか、真摯な目で見ていく必要があると思います。また、自分が本当に良いと思うことを行うことができず、それが阻害する環境ばかりが存在するなら、それは周りに対して冨山氏の表現を借りれば戦っていくしかないのかもしれません。

2011年5月20日金曜日

放射線と健康 舘野 之男





個人的事情もあって、放射線の本を一般書だけで、10冊弱消費した(正直一般書ばかり読み過ぎた。)。個人的には、放射線医学を専攻するこの著書が一番役にたっただけでなく、現在の低量の放射線に対する議論や、安全基準に関して比較的中立に書かれているので、最も人に薦められます。しかし、個人的によく理解できたのは、いくつかの主張の異なる本を読んで知識を得ていたからかもしれません。そして、中立的なのもあって、情報量が多いので、人によっては少し理解が難しいかもしれません。また、内部被曝に関する議論があるとよりよい本だと思います。

これより先は、僕のメモです。

電離放射線は種類だけでなく、もっているエネルギも重要

X線とγ線はエネルギが低い時は、光電効果によるエネルギ損失が発生しやすく、ある程度大きいとコンプトン散乱が発生する。エネルギーがさらに大きい時は、原子核の近くを通る際、原子核の電界の中で陰陽一対の電子を作り、自身は消滅する、電子対生成がおこる。さらにエネルギーが大きい場合は、光核反応がおき、原子核との衝突の際に中性子が発生する。

放射線影響の観点からみれば、吸収したエネルギーが同じであれば、コンプトン散乱でも光電効果でも同じ。しかし、医療でのX線診断と放射線治療では、これが影響する。X線診断では光電効果のエネルギー領域を用いて、骨や筋肉の光電効果の吸収線量の違いを利用してコントラストのある画像を生成する。一方放射線治療では、コンプトン散乱が多く起きるエネルギー領域を用いる。コンプトン散乱による吸収線量は、電子密度に由来するので、組織により大きな変化はない。

確率的影響と確定的影響

著者は、放射線の議論を一般の人にわからなくしているのは、この確率的影響と確定的影響があるからだという。実際、僕もそう思う。特に、この確率的影響と確定的影響を議論する際に、使うべき単位も変わってくるので、理解に難儀する。前者は実効線量(シーベルト、レム)で議論し、後者は吸収線量(グレイ、ラド)をもとに議論をするのが一般的らしい。そして、更に実効線量は、中性子線の場合は、がんの発生を指標とした場合と、骨髄障害や、がんの治療を目的とした場合など、目的の指標で、また異なる。その場合は単位もシーベルトとの混乱を避け、グレイ当量などと呼ばれる。

更に確定的影響は、閾値で議論されるので、比較的分かりやすいが、確率的影響は専門家でも考え方が別れる上、歴史的にICRPも紆余曲折してきたせいで、より理解に難儀する。(とはいえ、あまり解明されていない内部被曝に対する心配が少し残る気がするが。)

放射線業務にあたる人の安全は多くの過去の失敗から築かれた

放射線が発見されて間もない頃には、多くの事故が発生した。例えば、イギリスの研究では、1920年まで、放射線業務をしていた人たちは皮膚がん、膵臓がん、白血病による死者が有意に多かったが、1921年以降に放射線業務の道に入った人では、がん、白血病の発生率は普通の人と有意の差はない。これは、多くの地道な安全対策が生んだ結果である。

確率的影響の歴史的な紆余曲折

ショウジョウバエの実験結果から、直線しきい値なし仮説は遺伝的影響に対して、最初は主に議論されていた。しかし、マウスの実験では、いくつかショウジョウバエで得た仮説と矛盾する部分が発生した。また被曝した人の遺伝調査からも、被曝二世に遺伝的影響が認められなかった。動物では確認できても、人には確認できない遺伝的影響。残念ながら人では統計的誤差以上の結果を得ることができない。(この本では、その遺伝的影響を科学的に探るために、ヒトゲノム計画の出発点が生まれたと述べられている。)そして、被曝者のデータから重要だったのは、遺伝よりもがんの問題だった。そこで、「遺伝よりもがん」の時代へと変わる。そして、ここでも遺伝子が関連するので、直線しきい値なし仮説が適応されようとする。(しかし、多くの現場従事者はがんにも閾値があると考えていたようだ。)これは、より防護の観点から安全側にICRPが身を置く必要があるからである。この「遺伝からがん」の変換により、主に対象とするリスクの矛先が社会全体のリスクから被曝者へのリスクへと変わることになる。そこで、どうリスクを評価すべきかというのが現代の論争である。

また、実際の所の低放射線の人体への影響はよくわかってない。今までも、このブログでは、放射線に関する題材で触れてきたが、ホルミシス効果や、ペトカワ理論、人間の細胞の修復機能など、様々な議論がなされている。(内部被曝の脅威人は放射線になぜ弱いか)更に、被爆(広島や長崎)した人をもとに低線量のモデルを作成するので、スケールが全く違う中で、影響を想定することに対する難しさ、また一度に被曝した場合と、徐々に被曝するなどの違いによる影響の差などが考慮されていない、という指摘もあるようだ。

最後に著者は、この「遺伝的影響からがん」のリスクへの変換を、非常に重くみており、まだより検討すべきではないかと婉曲に主張している。

医療におけるリスクへの取り組み

著者は、医療診断のベネフィットと患者の被曝に対するリスクを長年評価してきたようである。ICRPの直線しきい値なしモデルを用いて、様々な検診が何歳以上からメリットの方が上回るかなどという研究を行っており、それ自体はおもしろい試みで、それにより、医療機器メーカーは劇的な低線量化の成功の動機にもなったようである。更に、著者自体は、ICRPの控えめなモデルを無くして考えれば、最近の疫学調査や一人の患者発見のベネフィットの大きさを述べ、X線検査程度の被爆量では、ベネフィットのが大きく上回ると主張している。


個人的には、医療からみた被曝の議論、確率的影響の歴史的経緯や、様々な放射線事故の事例を歴史を振り返るように知ることができたのでおもしろい一冊でした。


参考

2011年5月7日土曜日

内部被曝の脅威 肥田 舜太郎 鎌仲 ひとみ





最近、個人的理由から、放射線についての本を多く読んでいます。そのうちのひとつの本で印象深かったのがこの本です。現在の福島の話にも影響があると思うので、自分なりに考えたことをまとめました。

今の原発の問題でいえば、以下の要因が、多くの人を混乱させているような気がします。それは、内部被曝と外部被曝の違いや、低放射線の影響の専門家の判断の違いです。

内部被曝について

多くの福島に関する論争が、内部被曝について未だ議論が決着していない事を無視して、主張されている気がします。確かに多くの専門家でも判断が別れる所のようですが、内部被曝の問題を抜きに、多くを語るのは無理がありそうです。

内部被曝について扱う書籍ではよく書かれることですが、ICRPの基準には内部被曝の影響がほとんど考慮されておらず、広島や、様々な原発の関係施設の周辺住民は、内部被曝を考慮にいれれば、被曝により健康に影響を生じた人は多くいると主張します。

そもそも、内部被曝とは、放射性物質を体内に取り込むことにより生じる長期的な被曝です。放射性物質と細胞の距離が短いために、体外被曝の場合は無視される、アルファ線(ヘリウム)とベータ線(電子)の影響を受けやすい特徴があります。このふたつの放射線は、物質との相互作用が強く、"アルファ線は空気中で四五ミリメートル、体内では〇・〇四ミリメートルしか飛ばず・・貫通力は弱い。ベータ線は空気中で約一メートル、体内では約一センチメートルである"といった特徴があります。一方で、よく聞くガンマ線とエックス線(光子、電磁波)は、物質との相互作用が弱く、貫通力が強い。アルファ線は、紙一枚で遮ることができますが、X線などはある程度厚みのある鉛などを用いないと遮ることができないという性質があります。より貫通力の強い放射線としては中性子線が知られています。物質との相互作用が強いということは、体内でエネルギーを消費し、ピンポイントに細胞に影響を及ぼしてしまうということです。

被曝をした際に生じる電離作用は、化学変化などを細胞内で生じさせ、人体に影響を与える毒物を生成したり、DNAの破壊などを起こすことになります。もちろん、このような人体の影響は体外からの被曝でも一緒の部分が多く、人体の優秀な修復機能により微量であれば無害という主張や、わずかであれば気にしなくて良いという議論が多いと思います。前回紹介した人は放射線になぜ弱いかでは、まさに微量の放射線は人体に影響はないという主張で、むしろ健康に良いというホルミシス効果についても触れています。

この書籍では、"「微量な放射線であれば大丈夫」という神話への挑戦が、まさに本書の真髄である"と文中で述べているように、これらの議論に反論を行っています。そのひとつとして、ペトカワ効果について述べています。これは、"「長時間低放射線を照射する方が、高線量放射線を瞬間放射するよりたやすく細胞膜を破壊する」・・・これまでの考えを一八〇度転換させた・・・学説である。"なぜ、微量の放射線の長時間照射が細胞を破壊しやすいかというと、電離効果によって生じる活性酸素(フリーラジカル)が、適度に存在する状況を発生させやすいからと考えられています。活性酸素は、老化の原因や細胞の破壊の原因と考えられています。しかし、量が多すぎるとまた電気的作用を互いに発生させ、普通の酸素に戻ってしまうことが知られています。そのため、微量の放射線を長時間というのが内部被曝の上で影響を与えやすいと考えられています。(ちなみに、放射線によるフリーラジカル化は、タイヤなどの工業製品にも応用されています。放射線利用の基礎知識 (ブルーバックス)より)

では、内部被曝がどれだけの人に、どのような影響を与えたのかということに関しては、具体的な数字が乏しく感じますが、著者は、広島で多くの患者にみられた、ブラブラシンドロームは、この内部被曝でないと説明ができないとしています。また、内部被曝を考慮したとするECRPと考慮していないとするICRPの、戦後の被曝による癌による死亡者数の劇的な換算の違いなどが、ひとつのヒントになるかもしれません。また、アメリカの統計学者のグールトは、アメリカの婦人の乳がん死亡者が二倍になったことを調査した際に、原発施設の周辺で乳がん患者が増加していることを発表しています(しかし、僕は読んでいませんが、この書籍の原典に対する批評は非常に辛口で、星1の評価が多い。http://www.amazon.com/Enemy-Within-Birthweights-Radiation-induced-Deficiency/dp/1568580665/ref=cm_cr_pr_product_top )。

いずれにせよ、放射性物質を体内に取り込む可能性がある場合は、人や物質により影響は異なるものの、注意を怠らない方が良いと考えられます。また、低量の放射線に長時間あたる場合は安全と言い切るのは難しいのかもしれません。残念ながら、僕は専門家でもないので、結論は出ませんが、一般的な生活を送る上では心配する必要はないでしょう。

微量放射線の問題

人は放射線になぜ弱いかでも触れましたが、まだまだ議論が決着していない部分があるのが、微量放射線の分野のようなので、慎重にな態度をとるのが一般的な心情かと思います。また、微量放射線の影響については、以下の資料が個人的にはよくまとまっていると思いました。(以下の資料には一部内部被曝について書かれています。)

書籍全体としては、広島の原爆の際に、実際に医者として患者の治療にあたった肥田 舜太郎氏が書き上げている、第2章と第3章は非常に参考になるので、一読の価値ありです。(一方、鎌仲 ひとみ氏が書いたと思われる部分は感情的すぎる気がします。)医者としての体験と、内部被曝のメカニズムから、どのような危険性が考えられるかを述べており、反対意見の要約も掲載し、読者に対して親切です。放射線に興味のある方は読んでみると良いと思います。

参考

2011年4月29日金曜日

人は放射線になぜ弱いか  近藤 宗平





ものを怖がらなさすぎたり、怖がりすぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい。

著者は長年研究者として活躍し、物理学、遺伝学、基礎医学に従事し、放射線とは広島の原爆の時代から関わっている。この著者の主張は分かりやすく、低放射線に害はなく、現在一般的に使われている、閾値なし直線(LNT)仮説が誤っているという主張が本の主題のひとつである。また、この本を読むと、低量放射線の人体の影響に対して、意見が大きく専門家で別れているのも理解できる。

福島の話題がある今、内容がタイムリーなので多くの人がブログで批評をしているが、その反応は基本的に賛成する人と、一部賛成だが、本の主題のひとつである、微量の放射線は問題ないと言い切るのは難しいのでは?という意見に大きく別れる気がする。個人的な結論としては、まだ慎重な態度をとれば後者の考えに近いが、確率的にみて個人のレベルでは前者である。

何故そういう風に考えるのかというと、他のブログのエントリの記事の考え方と似ている部分があり、著者の意見を丸々賛同できない。同時に、多くの放射線を扱ってきた現代社会を考えて、変に心配してもしょうがないという結論にひとまず至ったし、微量の放射線が体にいいかもしれないが、一方で確率的に個人のレベルで健康を害したとしても、それを気にして生活していてもしょうがないレベルと思ってしまった。もちろん大量被爆する可能性があるような世の中になるなら話は別だが。

他ブログ

個人的には、第二章最後のマウスの遺伝病の結果とヒトに対する遺伝病への話の飛躍の仕方にも違和感を感じた。

残念ながら、この本を読んでも正当に怖がることはできないが、この本を読まない場合は、いつまでたっても正当に怖がることはできないだろう。

参考

内部被曝の脅威
放射線と健康