2010年6月20日日曜日

努力が我が身を滅ぼす時



怠惰な企業が,市場の分析や,技術の向上などを行わずに潰れてしまうのは,よく理解できる.

順調であった会社が,市場の分析を読み誤り,新技術についていくことができなかった場合は,同情を覚えるが,これも理解できる.

優秀と呼ばれた大企業が,正しい市場分析を行い,高い技術力と,既存製品で高い収益と巨大な顧客を持っているからこそ,潰れてしまうという結論は,多くの人が予想だにしない現状ゆえに恐怖する.

本書は,そういった企業や業界にスポットをあてている.

大手企業に限らず,中小企業やベンチャー企業であっても,”イノベーション”や”新規事業”という単語に強い興味を持っている人は,読むべき本である.

また,ケーススタディとして,ディスクドライブ業界,掘削機業界などに焦点をあてている.(日本企業としては,東芝,富士通,コマツ,日立建機などがちらっとでてくる)
他にも,後半では,破壊的技術を新規市場に持ち込んだ例として,ホンダのバイク,トヨタなども登場してくるので,そういった業界に興味がある人は読んでも損しないだろう.
少し,時代が古いのはいなめないが.

さて,では何故そういった,優秀な企業が優秀な故に,衰退していってしまうのだろうか.単純にいってしまえば,小規模市場に対して進出していく強いコンセンサスが得られづらいことである.特に,優秀な企業に集まる優秀な人は,その優秀さ故に,大手企業の要望を満たす,高い収益率の市場を優先してしまう.

反対に, 破壊的技術が新たに創造する市場は,非常に小規模な市場からスタートする.しかも,技術レベルとしては,既存技術よりも悪い場合がある.ただし,新しいバリューがそこにはあるが.

優秀と呼ばれる企業は,自らが行ってきた市場調査から,まだその市場は成熟しておらず,自分たちの収益を満足するレベルには達していないと判断する.しかし,存在しない市場はセオリーどおりに分析できない.また,予想通り拡大したとしても,その時に大きなシェアを握っているのは,新規参入企業であり,それを逆転するのは非常に困難だと歴史は証明している.大企業はそれらの破壊的技術となった製品を生み出す技術力をもっているにも関わらず.

大企業の強みは,継続的イノベーションであり,小規模企業の強みは,破壊的イノベーションだと著者はいう.

ならば,大企業はどう行動するべきかと聞きたくなるのが自然だ.

著者は,こう答える.
”これは,翼を腕にくくりつけ,高い場所から力一杯羽ばたいて飛び降りた古代の人びとが,例外なく失敗したのに似ている.夢を抱き,必死に努力したが,強力な自然の力に逆らっていたのだ.この戦いに勝てるほど強い人間はいなかった.・・・・・(自然の)法則や原理と戦うのではなく,それを認め,その力を調和する飛行するシステムを設計することによって,人間はついに,かつては想像もできなかった高度と距離を飛行できるようになった.”
つまりは,新規市場開拓に発生する現象を理解し,それに戦うのではなく調和するべき道を与える.

新規市場は予測しずらい.なので,本書では,外から見てしまえば新規技術開発と一緒で,まったくもって偶然と言わざるおえない,成功談も紹介されている.

失敗のリスクが非常に高いので,小規模の市場や小さな成功に見合った,小さな集団に任せることが,幾つかの解決策の中のひとつとして提示されている.スピンオフもその一例として述べられている.

もしくは,M&Aなどの企業買収も考えられる. しかし,企業を買う時は,その企業の技術が,自社との技術とみてどうなのか.そもそも企業価値と考えて見合っているか.どういった,統合の方法が望ましいのかというのを考えないといけない.この部分で失敗した事例も多いようだ.ただ単に市場を拡大するためのM&Aは失敗しかうまない可能性もある.

小規模市場に大手企業が参入することを頭に叩き込ませることもひとつの方法のようだ.非常にエネルギーを使うが,成功した事例もあるようだ.

また,自社で新規事業を開拓する時は,その予想は間違っているという前提で,常に臨機応変に現状に対応していかないといけない.わずかな情報で,大規模な投資を行っても,失敗する可能性が高いため,試行錯誤を繰り返した,持続的な投資が必要となる.おそらく,企業の資金力も重要となる.この点においては,大手企業のが有利だろう.

少なからず,私たちは心にとめておく必要がある.破壊的技術で新規市場を開拓する場合や,新たな市場が登場する時は,自分達を成功に導いてきた方法論は,ある一定条件下でうまく機能していたとしても,同じ方法で,それらの市場に太刀打ちしてはいけない.

経済書の結論は常に至極当たり前で,シンプルなのだ.

ようは,見合った方法を常に模索し試行錯誤していくしかない.その時に,してはいけないことを知るにはこの本は良いと思うし.多角的にモノを見るには良い.試行錯誤を行う上で得られた失敗も,企業にとっては充分価値あるものになるだろう.

そう考えると,日本の大手企業の社員は,リスクをとって,挑戦した方が企業にとっても,本人にとっても良いのではないだろうか?社員は責任をとるといっても,対した責任をとるわけでもなかろう.しかし,そのためには,企業全体としては,安定したキャッシュフローが必要となると考えられる.