延岡 健太郎
日本経済新聞社
売り上げランキング: 11,929
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価値創造ではなく価値獲得を
日本企業はすばらしい商品を開発するのは得意だが、最終的に利益を得ることが苦手であるといわれます。
もちろん、世界トップクラスの企業が日本にはいくつもあり、高利益を出している分野があるのも事実です。
しかし、近年の傾向としては、デジタル家電と呼ばれる業界では、利益創出につながっていない状態に陥っていることをよく聞きます。
過去よりも収益を得る形が変わっていたり、単純にモノを作って売れば良いというような構造ではなくなっているからでしょう。
では、どのように収益構造を作っていけばいいのでしょうか?
対象とする業界・サービス・商品、または時代によって、適した収益構造も変わってくるでしょう。
また、適した収益構造を維持するには、小手先の商品機能の差別化ではなく、組織そのものの構造を俯瞰的な立場で見直す必要もあるでしょう。(商品機能は差別化のひとつですが、表層的な差別化のひとつにすぎません。重要なのは、組織プロセスや事業システムのレベルでの差別化です。それらは、他社には簡単には真似できないため、コアな差別化といえます。)
それらの課題に対して助けになると思ったのが、MOTです。
経営に携わっていなくても、エンジニアの多くは、自分の将来の事業・仕事を考えていくうえで、本書は一読する価値があると思っています。
摺り合が得意。でも、プラットフォームリーダーにはなれない?
日本のメーカーは、標準化されにくい摺り合わせの技術の世界では、完成品のような自動車から電子部品まで非常に強い影響力を持っています。
これは多くの電子機器や製品が日本の部品が多く使われている点や、トヨタなどを筆頭とする強い自動車メーカーを見ていると納得がいきます。
しかし、標準化されやすく、価値の基準が頭打ちされやすい分野、いわゆるコモディティ化してしまう製品では、日本のメーカーはコストの観点などから価値獲得を維持するのが非常に難しいといった点があります。
日本の多くの電気メーカーは、時代の変化により、こういったコモディティ化の流れに飲まれてしまった製品が多く、利益が獲得しにくい状態が続いているといわれています。
一方で、摺り合わせの技術は組織的にも得意ではないと言われている米国企業ですが、価値獲得の構造を維持するのは得意だと言われます。
これは、標準化されるモジュール製品のプラットフォームリーダーになることに長けているからです。(製品や技術のプラットフォームではなく、業界プラットフォームになることが価値獲得のインパクトは大きい気がします。)
例えば、MicrosoftやIntelが本書ではあげられます。最近ではAmazonやApple、Googleもそうでしょうか?
Intelは何故プラットフォームリーダーになれたか?
上述したMicrosoftだとWindowsやOfficeなどの製品からも、プラットフォームリーダーとしての想像がたやすいですが、PCの一部品でしかないCPUのIntelは何故プラットフォームリーダーへと成長したのでしょうか?
以下の資料やBlogが参考になります。
PCのバス・アーキテクチャの変遷と競争優位 ―なぜ Intelは、プラットフォーム・リーダシップを獲得できたか―
頂点に立つインテルの王者の戦略
Intelは利益率の低いチップセットをあえて設計・販売することで、高い利益率を出していると言われています。チップセットの設計・販売により、USBなどのインタフェースをもち、サードパーティの周辺機器を開発することを容易にし、更には高機能CPUの恩恵も受けやすい状況へと変わりました。
そして、より重要なことは、CPUとノースブリッジのインタフェースをブラックボックス化することによって、Intel互換のCPUを作ることができない状態にしてしまいました。
サードパーティやユーザーには恩恵がある一方で、ライバルCPUメーカーを追い出すことに成功したといってもいいかもしれません。この戦略が高い利益をもたらしたことは言うまでもないでしょう。
技術のモジュール化と組織の差別化に成功したキーエンス
本書を読んでもうひとつ興味深い事例がありました。
日本のFAを支えるキーエンスです。
摺り合わせ型(インテグラル型)とモジュール型は、技術的な話だけでなく、顧客との関係にも応用ができます。
BtoBの製品開発になると、顧客との関係はインテグラルな関係になりがちで、技術や部品をモジュール化することが困難な一面があります。
しかし、キーエンスは、社員の半分以上の営業部隊を作り、潜在的ニーズの把握と、部品の標準化に成功しているようです。
販売を普通はもたないという同業界では、いかに組織を構築することに成功したかが分かります。
価値獲得への挑戦
プラットフォームリーダーや組織を変えることで強い価値獲得構造を得る可能性があることが分かりました。
しかし、現状のプラットフォームリーダーや利益構造も、時代が変われば、リーダーの立場を維持していけるとは限りません。
摺り合わせを得意とする日本の企業組織も、十分に、次の時代にはプラットフォームリーダーや強い価値獲得構造を得ている可能性があると思います。
では、次世代のプラットフォームリーダーや強い価値獲得構造を得るために、何ができるのでしょうか?
価値創造にここまで執着できる日本企業やエンジニアが、インセンティブの与え方や視点を変えるだけで、価値獲得に強い日本の企業が続々と出てくるのではないでしょうか?
自分も考えてみたいと思います。
色々と気付きの多い本書、オススメです。
延岡 健太郎
日本経済新聞社
売り上げランキング: 16,294
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