2011年5月3日火曜日

ダントツ経営―コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」 坂根正弘





日本的なしっかりした高い生産力と、中国を中心とした新興国への強い販売力のヒントを得るひとつの本かもしれません。僕の私的メモとして以下まとめました。

著者は「知行合一」という言葉を軸に、コマツの経営を行ってきた日々をこの本でまとめています。まず、冒頭では中国という特殊な市場に、どのように挑戦していったかを述べています。具体的には、販売を現地の人に任せたり、中国部品メーカーや日本の関連会社の協力体制や増産のためのダブルソーシング、流通在庫ゼロの取り組み、現地法人への権限委譲とマネジメントの現地人を含めた現地化への挑戦などがあげられます。また、中国の日本とは異なる事情でも、品質の高さとコムトラック、ハイブリッドなどが、販売力の強みともなっているようです。

現在好調なコマツも、坂根氏が社長に就任した当時は、好調とはいえない状況で、赤字決算となっていました。そこで、ファクトファインディングの作業の結果(事実をしっかり数字で見極めることの重要性)、コストのうちの「固定費」を削減することを決めます。利益を確保するために、社員のリストラ・転籍や、子会社の統廃合などを行いました。ここでは、「変動費」ではなく、「固定費」に注目し、信頼を損なわないためにも一度きりのオペが重要で、大きな病となる前に行うことと述べています。また、成長に必要な投資は怠らず、会社の戦略上意味があるかを判断することも重要です。同時に間接部門なども改革を行い、早い決算体制の構築もおこないました。それ以降も、生産ラインの改善や生産体制の統合、マザー工場性の導入など、様々な体制変換を行っています。

個人的に興味深かったのは、日本企業の強みと弱みに関する考察です。"生産技術は現地化できない"という、現場の強い力と中間層からのボトムアップの日本の強さを、筆者は事あるごとに大きく主張します。日本のものづくりの力が、世界中に大きな影響力を持っていたのは、東日本大震災でも大きく実感します。コマツは協力企業に対して、「緑の会」という団体を作り、協力企業の成長を促し、同時にモデルチェンジの際に納入企業を見直すということで、競争意識を与えています。生産についていうと、開発部門と生産の一体性の重要性もあげています。

一方で、なんでも自前化したり、トップダウンがなかったり、管理業務コストが高いのが日本の弱みであると述べています。自前化は、競争力のあるもの意外は、アウトソーシングすれば解決しますが、トップダウンの弱さは、全体最適を困難とし、部分最適ばかり行い、最終的にビジネスでは負けてしまう恐れがあります。現在の政治をみていると、この部分を改善するのは難しい問題な気がしますが、強いミドルアップを維持することも重要な課題と述べています。

もうひとつ覚えておきたいのが、商品の開発手法です。他者と比較した、横並びからのスペックの全体改善ではなく、何を犠牲にするかを合意したうえで、何をダントツにとした商品を作成するかを考える製品の開発を促しています。

全体的に、日本の生産の強さは何にあると考えるかを知ることができ、まさに日本らしい体制のひとつを垣間見ることができます。また、円高に対してそこまで悲観的に捉える必要がないこともこの本で確認できます。(最近、"円高"="何でも海外工場"と考えるのは安直的すぎる結論であることが分かってきました。この本でも、日本工場が高い生産性をもっていると述べられています。また、生産を含めたイノベーションを行うには優秀な現場社員がいる日本の特徴を活かした方が良いようです。)ただ、書籍自体は、生産とコスト削減などの構造改革、中国市場などが主題のため、研究に対するアプローチや現状に対しても突っ込んで知りたかった所です。また、キーとなる開発と生産を、日本だけに留めるのがベターなのかというのも個人的には興味があるところです。

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