2011年12月30日金曜日

継ぐのは誰か?

継ぐのは誰か? (ハルキ文庫)
小松 左京
角川春樹事務所
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久々に、専門書以外の本を読みました。手に取ったのはSFです。
著者が亡くなり、小飼弾氏のブログの記事を読んで興味がわき読んでみた次第です。


も読んみましたが、個人的には”継ぐのは誰か”をお勧めします。



SF作家は、昔から人類に対する問題定義を彼らの想像力と知識を持って、人々に投げかけてきたと思います。人造人間や、アシモフが考えたロボットの三原則もそうでしょう。人類に対する大きな問題への投げかけは、今後私たちが直面する問題の一部を予見しているかもしれません。

その予見能力の高さは、本書からも40年前に書かれたとは思えぬネットワーク化された社会の描写からも分かります。まさに今現代の様子かと思わせ興奮すると同時に、40年前から想像されていたいう事実に人間の限界を思い知らされる部分です。しかし、こういった未来社会に起こりうる事態を想像することは、実際日々の生活を行う我々の想像力と創造力にも非常に重要であると私は考えています。想像力の少ない人は、自分の行動が未来にどういった影響を残せるかを想像することができず、創造力のない人間になってしまうと考えているからです。

そういった意味では、継ぐのは誰か? - 小松左京哀悼の辞に代えてに書かれている戦争に関する集団心理の問題も、「人」が行う行動が「人々」にどう影響を与るかという点において、自分たちの想像力次第で変わるのではないかという希望も同時に抱くのです。(ヒューマニズムという安直な言葉に変えてはもらいたくないんですが。)

SFというと、一見子供じみたように見えますが、SFの古典が現代にも大きく影響を与えているように、実に多くのことを学べると思います。そういった意味で、他に個人的にお勧めなのは甲殻機動隊とかでしょう。”継ぐのは誰か”とあわせて言えば、電脳を自由に扱うようになったのが、新人類か旧人類かという対比もできると思います。また、世界感も通じるものがあると思います。

想像力について改めて考えさせられる一冊でした。

2011年11月21日月曜日

入社一年目の教科書 岩瀬大輔

入社1年目の教科書
入社1年目の教科書
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岩瀬 大輔
ダイヤモンド社
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入社1年目の教科書

誰もが足元の石につまずく時期に、今一度読み返したい一冊です。

本書は、ライフネット生命保険の副社長である岩瀬大輔氏が、社会人新人向けに書いた本です。

読んでみると、あぁ、やっぱりそういう考え方で良いんだ。って安心させてくれると同時に、そこまで深く、そしてプラスには考えられてない所もあったなと、振り返ることができました。

モチベーションを高める。

そして、今の自分にはどう当てはめるかを考え、よりよくしていくにはどうすべきか。

再考する機会には良い本だと思います。

内容の多くは当たり前かもしれません。理想論かもしれません。違うことを言う人もいます。原則として全てに当てはまる訳でもありません。

でも、案外ここに書かれている基本的な意識を日頃からちゃんとできている人は少ないのでは。できてない人達の仲間入りをしてはいけません。

そして、何よりすぐに読め、よく咀嚼もできるこの本。お勧めです。

以下は、個人的に気になった部分をメモしました。

・50点で構わないから早く出せ

仕事は単独ではなく、”総力戦”で戦うもの。より早くフィードバックをもらう機会を得て、自分の中で経験値を積む場を増やしていく。

・つまらない仕事はない。

自分なりの付加価値を見いだせるか。
見方をかえることによって、あなたが向き合う仕事はまったく違うものとして見えてくるはずです

・会議では新人でも必ず発言せよ

何らかの形で貢献するのが社会人のルール。新人なりの参加の仕方は必ずある。もちろんTPOをわきまえた言い方も重要。

・仕事は根回し

根回しというより事前準備。総力戦ですからね。

・小さい仕事を全て引き取った方が、勉強や経験になる。

自分で小さい仕事でもひと通り経験できる重要性。

・resourceful

検索の時代にも直接聞くという武器は鉄板

・自分の仕事を全体像とつなげる

この仕事はなぜ存在するかを本当に考えれてますか?
全社的な目的を自分の仕事に反映できてますか?

・ビジネスパーソンの勉強は、アウトプットにつなげるべき

インプットで終わる勉強は学生まで。
個人的には、ここがネック。

・脳に負荷をかけよ

インプットした内容は自分のビジネスにどうアウトプットにつなげるか。

・目上の人を尊敬せよ

人には悪いところもあるが、それと同じくらい良いところもある。そこから学べるところは多い。

・感動はためらわずに伝える

分かってくれてる、いう必要はないではチャンスを逃している。

・自分のペースを知る

自分の能力を最大限に発揮できるペースを知る。
最初からは難しい所も。。。
ただ、その姿勢は見習いたい。

・仕事には「勝負どころ」がある。

いつ来るか分からない15分のために準備をしろ。と似ているかもしれない。
全ての予定を変えてでも、やらないといけない時がある。その時に能力を発揮できるか否かは、日々の戦い方に依存すると思う。

2011年10月30日日曜日

Leopard (Mac Book Pro) から Lion (Mac Book Air) に移行

Apple MacBook Air 1.7GHz Core i5/13.3/4G/128G/802.11n/BT/Thunderbolt MC965J/A
アップル (2011-07-21)
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 Web上に情報がなくてなんだか不安だったけど、問題がなかった件の報告

Snow LeopardからLionにした人は数多くいれど、SnowのつかないLeopardからLionに移行した人の情報は少なかったので、一応自分が行った方法を報告しておきます。

同一PCでOSをひとつ飛ばしてアップデートするのは面倒な様子ですが、PCが違えば全く問題なかったです。

PCも買い替えた理由は、我が家のLeopardの入っているMac Book Proが少し古くハードウェアの部分がガタが少し出てきた。iPhoneがiOS5になって、有効に使っていくにはLionへの変更が必要。という理由から保守派の自分もギークなみなさんにProよりも絶賛されているAirに乗換え&様変わりしたLeopardからLionへの移行を行ってみました。

結果としては、PC本体も変わったためかえって移行が楽でした。

1、Leopardが入っているProに移行アシスタント for Mac OS X Leopardをインストールする。そして、再起動後TimeMachineでバックアップ

2、購入したAirを起動し、TimeMachineから起動を選択。

3、後は指示された通りに。事前にAppleIDがない人は用意しておくと楽です。

終了。

今のところ全く問題がないです。このPCの移行の楽さは素晴らしいと思います。


2011年10月2日日曜日

日本企業にいま大切なこと

日本企業にいま大切なこと (PHP新書)
野中郁次郎 遠藤功
PHP研究所
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日本企業にいま大切なこと (PHP新書)



日本企業は、「世界で戦えない」


この言葉に反旗を翻した本。

米国の華やかな企業経営から流行した科学的経営や、効率的経営ばかりに主眼をおいた経営に対して疑問視すると同時に、かつてから日本が得意とした現場の「暗黙知」などに重点を置き、情緒的でよくないと批判された日本企業だからこその強みを説明している。

以下は気になった言葉をまとめます。

・"In the beginning was the Word."か、"In the beginning was the Experience"か。
 仮説とは経験から生まれるもの。イノベーションは平凡な日常からしか生まれない。

・イデオロギーだけでなく、リアリスティックも。
 理念を実行にうすつには、現実主義の視線から柔軟な発想が必要となる。

・「サイエンス」というより、むしろ「アート」
 個人的に、イノベーションのジレンマのような、経営から法則性を探しだすことは良いと思うが、最終的にそれを日常で実践できるのは、机上の計算だけでない実践的な指導者も必要。それは、「サイエンス」というより、むしろ「アート」に近い。

・「共同体の善」
 CSRが叫ばれる前から日本には共同体の善を実践していく企業が多くあった。しかし、「共同体の善」がこの多様化した社会で簡単に同意を得られるかは難しいところかも。また、各企業がどんな善を目的として事業を行うかを考えることは今後より重要となる。

・サムスンの課題はサステナビリティ。
 事業規模のスケールでは他を圧倒しているが、「集団」としてのパワーには疑問符がつく。個々の社員は高いパフォーマンスを発揮するが、それだけで長く企業として続くのだろうか。(また、サムスンの得意とする事業のモデルが世界的にソフトの仕組みづくりが主力になっている点からも、今までの事業の方法では難しいのではないかと思う。)

・アジャイルスクラム
 知的創造には他社と共鳴しあう「場」が必要。

・日本の弱点は「モノ」と「モノ」をつなぐ「コト」のイノベーション。
 これは、iPhoneやAmazon、Googleなどと比較されてよく言われることですね。

・ミドルを踊らせる。
 会社の中間層をどう踊らせるか。それが、経営者の重要な点。

・一社で様々なリソースを持っている。
 総合力を今後うまく活かすことができたら、日本の企業は化ける可能性がある。

2011年9月25日日曜日

特許の考え方を知るのに

御社の特許戦略がダメな理由
長谷川 曉司
中経出版
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御社の特許戦略がダメな理由

特許と事業のあり方を知る第一歩によい本だと感じました。

よく語られる特許"戦略"とは実際何を意味しているかを教えてくれます。特許戦略に対する基本的な考え方を学ぶことで、特許提出を仕事とする技術者が、どう考えて行動していくべきかの指針を得ることができます。(技術者でなくても、特許に携わる方にはおすすめです。)


失敗事例から学ぶ


革新的技術が生まれ、特許も提出したが、その特許の情報によって他社が自社より短い開発期間で似た技術を達成してしまうという事例が多く存在します。かの有名な、サラリーマン研究員がノーベル賞を取得した技術でさえ、特許化したものの実際に稼いだのはドイツのメーカーであったそうです。

特許の重要な役割として、技術の独占と引き換えに技術情報の開示が存在します。しかし、そのために他社が隙をついて(特許を侵害しないように)、技術を模倣することを容易にしてしまいます。一見想像しやすいこの状況も、特許が重要と叫ばれる近年には、企業が陥りやすい罠だと筆者は主張します。

それは、競合企業の存在が予想でき、権利の広い特許を書かなくては、と日頃から考えていても、戦略として十分に特許を機能できていないからです。これでは、特許によって、むしろ技術を模倣させ他社の研究開発期間を短縮することを容易にしているとしかいえません。


必要な特許戦略とは何か


では、行うべき特許戦略とは何でしょうか?

ここで、少し話を変えましょう。そもそも、特許を提出する目的は何でしょうか?

特許を提出することは目的ではありません。特許は手段のひとつです。では、何の目的があるでしょうか?

筆者は"企業の利益を最大化すること"と述べています。


一般的に特許というと、他社が先行して特許を取得することから”守る”ため。という声があがります。


残念ながら、”守る”特許からは、事業としての利益は生まれません。(パテントだけで稼ぐ企業もなくはないが、多くの企業の考え方とは相容れないでしょう。)

では、相手企業が特許を侵害したときに、権利を主著し、損害賠償を得るためでしょうか?

そういった事例もありますが、これは事業利益を増大させるとはいえず、継続的なイメージを持つ”戦略”とはかけ離れていると筆者は述べます。

筆者は、特許は”攻め”の道具のために使うべきだと主張します。(”攻め”や”守り”とは、言葉のイメージの問題なので、ここで変な誤解をうむ可能性もありそうですが。。。)

筆者の主張する、特許の”攻め”とは、具体的には排他力の効果的な活用といえると思います。”競合する他社の前に協力な特許網を築きあげることによって、その他社が自ら事業を断念するか、事業への参入が大幅に遅れるというような状況を意図的に作り上げることができれば、これこそ優れた特許の活用ということができるのではないかと思う。

つまり、戦わずして勝つことこそ最大の”攻め”なのです。

これにより、他社が参入しないことによる利益の増大と、他社が参入に遅れたことによる、先駆者の利益が期待できます。


言うは易し行うは難し


では、そのような特許戦略はどのように実践していけばいいのでしょうか?

よく述べられる、曖昧な”広い”特許では、不十分だと言えます。競合他社が分かる場合は、これらの会社の技術の流れを包括した”戦略的な範囲で広い”特許を取る必要があるのです。つまり、具体的な他社が技術情報を見た時に、どう模倣するかを含めて特許の戦略を考える必要があります。

しかし、まだ事業化もされてない、競合他社もわからない技術の場合はどうすれば良いのでしょうか?この場合は、発明の本質は何か?ということから議論を行い、わざわざ発明を限定的にする必要はないと述べています。

これらの戦略をきちんと明らかにし、組織的に行なっていくには、三位一体型の特許戦略が重要と筆者は述べます。三位一体とは、”研究・開発”、”知財”、”事業部”の三つです。これらが、何を事業の目的とし、事業展開上何が懸念され、そのためにどういった戦略を取るべきかを専門家たちが決定します。


成功事例から学ぶ


この本の最もいいところは、失敗だけでなく、何故あの戦略は成功したのか。という事例まで含めている所です。実際に複数の競合企業の存在する材料メーカーが、他社の状況から描いた戦略による成功例などが述べられています。


最後に


企業の新技術を”攻め”の特許で、戦わずして勝つ事業展開をすることは、一見消費者に不利益に見えるかもしれません。しかし、安易な模倣ばかりを許すより、違う観点からブレークスルーが期待できるという点からも重要だと筆者は述べています。

開発者・研究者のモチベーションは、技術により事業を成功させ、世界にも貢献できることだと思います。しかし、本書でも述べられている”知的創造サイクル”を実践していくためには、ルールにのっとり、発明は保護されると同時に、その利益と情報により、新たな価値を創造していく必要があると思います。

特許がイノベーションの障害になるという見方もありますが、きちんとした特許戦略を描くことにより、”知的創造サイクル”というのを実践していく必要があるのでしょう。

2011年8月29日月曜日

ジョブズ・ウェイ 世界を変えるリーダーシップ Jay Elliot William L. Simon

ジョブズ・ウェイ 世界を変えるリーダーシップ
ジェイ・エリオット ウィリアム・L・サイモン Jay Elliot William L. Simon
ソフトバンククリエイティブ
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ジョブズ・ウェイ 世界を変えるリーダーシップ

数あるJobs本の中でも、この本はシンプルでかつすばらしいメッセージを放っています。そのメッセージとはJobs風に言えば、以下の一言に収まるでしょう。

"Why join the navy if you can be a pirate?"

・起業家精神のある企業風土。
・なぜ、こうなのか?ではなく、なぜできないのか?
・次の成長、利益ではなく、価値観の変化を。世界を変える次の製品に。
・宝くじにあたったらあなたは仕事をやめますか?

数ある言葉で、ジョブズが情熱をどこにフォーカスしていたかをこの本では表現しています。そして、その驚異的な成果をもたらしたジョブズの精神は、ジョブズだけの専売特許ではないはずです。

また、ジョブズも自分が何に得意であるかと気づくまでには、多くの失敗に時間を費やしました。そして、僕達の得意な分野はジョブズとは違うはずでず。

もちろん彼ほどストイックになれる人は世界にはなかなかいないでしょう。
日本にはかつて盛田昭夫がいましたが。

そして、そんな彼らをこう呼ぶ人もいます。

ジョブズは発明ではなく盗作の天才だった

確かにジョブズの人生に大きなアイデアを与えたのは、HPのパロアルト研究所だったかもしれません。しかし、彼には製品を誰よりも愛し、世界を変えようとする情熱が誰よりもありました。彼は、エンジニア以上の情熱を持ち合わせていました。その結果のひとつが、ホリスティックな製品開発だったのかもしれません。

本気で変えようとする情熱家達を応援し、僕達もその一員になろうではありませんか。しかし、数字を追うだけで、製品を愛していない企業も残念ながら存在することも確かです。

news - HPのctrl+alt+delが英断どころか油断だらけの理由

あなたは、海軍の一員になりたいですか?海賊の一員になりたいですか?あなたが、海賊の一員になろうというなら、この本は読まなければいけないでしょう。あなたが、情熱を持って注ぐべき仕事は必ずあるはずです。

2011年8月7日日曜日

改革のための医療経済学 Health Economics for Reform 兪 炳匡

「改革」のための医療経済学
兪 炳匡
メディカ出版
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医療政策を論じるならば、この本は必読。そして、多くの医療従事者も必読。様々な医療政策に存在する"誤解"を知るには良書。少なくとも僕は目からウロコの連続で、いかに医療に対する通説が間違っているか、政策決定の考え方が間違っているかを理解させてくれました。

まず、以下の文章を読むだけでも、個人的には衝撃的。"医療費高騰の犯人探しについて、今まで言われてきた5 つの要因(人口の高齢化、医療保険制度の普及、国民所得の上昇、医師供給数増加、医療分野と他産業分野の生産性上昇格差)は、あまり寄与していないことは欧米の実証研究が示唆している。これらの要因の寄与率を全て足し合わせても米国の総医療費上昇率の25~50%しか説明できない。残りの説明できない75~50%を占める、医療費高騰の黒幕ないし真犯人は、医療経済研究者の間では「医療技術の進歩」と予想されている。"また、予防医療が本当に医療のコストを下げない理由や、米国の医療の満足度が高いという識者の包括的分析の欠如。日本の政策決定のためのデータの決定的不足。多くが衝撃的です。また、日本の医療が偶発的に安くあがっているという事実も驚きできした。

ただ、強いて難癖をつけるならば、今叫ばれている医療改革制度が間違っていることは述べられているが、具体的に日本が直面している医療政策の問題と、解決策の提言を豊富に述べて欲しいところ。

しかし、それらを本当に議論するには、日本の政策決定を行うためのデータが著しく欠如している。つまりは、そこが問題なのだが、それだけでは読み物としては、寂しいものがある。

最後に、政策決定を決めるにはどういった理念を持つべきがという問題にいきつく。私たちがどういう世界を望むか。それは、私たち一人ひとりの読者の問題でもある。

以下は個人的メモ

2章 比較による医療の相対的位置づけ


ここでは、各国の指標を比較することの医療経済学における重要性を述べています。それと同時に、比較はあくまでも相対的なものであること、また、指標のつまみ喰いによる、特定の主張者の存在に注意を喚起しています。そして、日本は医療経済に対しのアカデミックな部分はやっと成長しはじめたばかりなようです。何はともあれ、相対的な位置を把握し、政策決定などの助けとしようとのことでしょう。

続いて、社会保証の支出の変動を実際の資料を使って議論します。よく、社会保障に使われる伸び率が大きいと言われているようですが、公共事業関係費よりも少ないとされています。そして、他国との比較では、先進国の中では医療に対する社会保障費が少ないようです。

ここで驚いたのが米国の医療支出です。"米国の社会保障に含まれる医療とは、公的医療プログラムである、全人口の14%をカバーする高齢者対象のメディケア(Medicare)と、約13%をカバーする低所得者対象のメディケイド(Medicaid)を補助・運営するだけでGDPの約6%を投じています。同じGDPの約6%を投じて、補助・運営される日本の公的医療保険が人口の100%をカバーしていることを考慮すれば、日本の医療は国際的水準からみても「安くあがっている」といえるでしょう。"とのこと。

また、個人の医療支出を含めて全医療費の支出でも、日本は英国と同じレベルで新興国の中で低い水準となっています。一方で米国の医療費は群を抜いて高いと言われています。そして、日本は「アクセス」(病院への受けやすさ)もかなりいいとのこと。待ち時間が長いといわれている日本の病院でも、海外から比べるとだいぶ良く、米国では15分の診断を受けるのに一週間の予約が必要であったり、保険会社が受ける医療機関を制限したりしているとのこと。また、有保険者とそうでない人の差別もやはりあるようです。

一般的に医療費が高い国が、医療の質が良いとされているが、その例外が日本と米国。日本は低いのに質が高く、米国は高いのに質が低い。日本の特徴としては、診療に従事する医師の数が少なかったり、CTやMRIの装備が数倍以上の規模であったり、現在は変わってきているが、「薬漬け診療」があったりしたよう。むしろ、今では「過少投薬」を心配する声も。また、医師の必要数の地域による偏りは大きいようです。

各国の医療満足度はデータのつまみ喰いの仕方や、患者の住む場所、患者が中流以上かそうでないかなどによる見方によって、大きく変わるようですが、全般としては日本は高い位置にいるようです。

3章 医療経済学に何ができるのか

医療経済学がどういうものなのか、どういう目的のある学問なのかということを、説明しています。経済学と経営学の違い、社会全体の効率と福祉を最大化し、資源をどのように配分するかなど、経済学の無縁の僕にも分かりやすく書かれています。特に、予防接種の一例は非常に勉強になり、「市場の失敗」についても学びました。このような、全体視点から物事を考える事も非常に今後大事だと痛感しました。

また、規範的な、しかも広い範囲を扱った、経済学の命題(「民営化によって医療全体の効率が向上するか否か」)についての、断片的な話があげられるときは、まず疑った方が良いと主張しています。このような命題に対して、単純明快な解は今後も存在せず、前提条件であるX,Y,Zがほぼ満たされた時に限り、解決策はAとなる。としか答えられず、おのずと答えも複数となる。

最後に、医療経済学を専門的に学ぶにはどうすれば良いかについて答えています。

4章 医療費高騰の犯人探し

本書のひとつの醍醐味はこの章にあると思います。従来、医療費高騰に寄与していると思われている、いくつかのファクターについて、小物(実際はそこまで寄与していなかった)であることを説明します。このような、間違った犯人を示すことは、政策決定上、意味のないものにヒトとお金を使う必要がなくなり、大変重要です。

高齢化社会が医療費高騰に寄与しているかの問いに、相関性なし、もしくは、あっても非常に軽微という研究結果が多いようです。これはかなり意外です。急性期の医療費はみなほとんど同じで、寿命に関係なく、介護医療費を上昇させると述べています。しかし、高齢者の総医療費の3分の2は急性医療費がしめています。しかし、もちろん、年金などによる財政の圧迫の可能性と、慢性疾患などについては厳密に判断できないと留保する部分もあります。

続いて、医療保険における医療費高騰についてです。ここでは、医療保険制度が必要か。という、根本的な疑問から議論しています。この手の議論には「RAND医療保険研究」がこの分野で、「知らなければモグリ」といわれるほど有名なようです。まず、保険制度がパレード最適配分という言葉で、社会全体の経済厚生を高めることができるとまず説明しています。しかし、モラルハザードが起こる可能性が医療には十分にあるため、最適な措置ではないが、次善の策であるという認識があることを説明しています。RAND医療保険研究をまとめた「Free for All」の内容は個人的に驚きました。患者負担レベルを分けたグループの、医療の受診率、健康状態、医療費などの違いについて調査したこの研究は、最終的にどのグループも、医療費全体の増大を起こさなかったと述べています。しかし、5%以上の患者負担がある方が、低所得者の健康状態は悪化します。しかし、健康な人にとっては、医療保険制度は資源の浪費、上述のモラルハザードを誘発し、患者負担が低いほどその度合いが顕著になるため、「Free for ALl」では、全ての人が窓口負担がゼロで受信できことに対して疑問を呈しています。本書では、モラルハザードの問題も含めて、功が罪を上回る可能性が十分あるため、「次善の策として必要」との合意に、多くの医療経済学者は至っていると述べています。

長期介護医療費は、総医療費からみればわずかですが、人口の高齢化が施設介護費を大きくあげているのは事実。また、家族介護を考えれば、精神的負担は大きく、財政上の問題も大きいのではないかと想像します。この部分の問題は、未だ良い解決策があるとは思えません。

5章 改革へのロードマップ

医療保険を民営化して大失敗をした米国や、チリ、フィリピンを例に議論が行われています。民営化=効率化という図式が簡単には当てはまらないこと。また、「最低限の医療は基本的人権」という理念を選択する以上、政府のある程度の介入は不可欠で、市場に任せた医療に困難が多くみられていることが述べられています。結果的に多くの諸国が民営化されていない保険のが効率が良いと述べられているのは、注目に値すると思います。また、各医療機関(病院)などが、市場原理主義的に競争にさらされても、医療費の効率が上がるとは限らないようです。(サービスは、費用を上乗せすることであがるかもしれません。患者の待遇など)また、地域に医療施設が少ない場所では、競争的医療市場が存在しない場所が多く存在するため、競争が意味をなさないとも言われています。また、民営化によって構造的二層化が生じると、効率が悪化するばかりでばく、後戻りがしずらいといったことも懸念されています。

日本の問題として、費用対効果・便益分析(CEA・CBA)が非常に遅れていることが指摘されています。インプットに対して、どれだけの健康などが促進されたかというアウトプットが、より一層あがるには、これらの考え方が重要かもしれません。

日本の医療機関はNPOで、株式会社の参入は許されていません。これは、医者が経営方針に依存する場合が多いため、効率化に対してよく疑問視される部分であるようです。しかし、株式会社が一部医療機関を運営している米国などは、残念ながら効率的とは反対方向の医療へと進んでいるようです。著者はここで、効率化を促進できるNPOの体制構築を提言しています。また、NPOのより一層の地域住民との関わり合いを促進するため、税控除などの法整備を行うべきだと主張しています。



統括として、日本は偶発的に他国と比べて質の高い医療を安く提供できた事実があります。しかし、昨今の医療政策を変えようという働きは、短絡的な見方が多く悪い方向に政策が転換される可能性は拭えません。医療経済学という観点から見るならば、投入した金額に対して、どれだけの健康を促進できたか。限られた資源を最も効率良く分配できたか。という視点からきちんと物事を考える必要があります。また、より一層の効率化のため、株式会社ではなく、NPOという形式の中で医療を改善していける法整備と、中立的な視点から議論を行うためのデータの収集が必要です。日本の医療政策決定が貧弱な印象を覚えるのは、データからモノを考えるという、極めて基礎的な仕組みができていないからなのでしょう。